くらはしのクラシック日記

~倶楽趣博人(くらはしひろと)の随想クラシックの思い出、Cafe Klassiker Hrを受け継いだブログです~


2018.12.12~31 (ライブ収録OPERAVISION
出演
オイリアンテ:ジャクリーン・ワーグナー
アドラール:ノルマン・ラインハルト
エグランティーネ:テレサ・クロンターラー
リジアルト:アンドリュー・フォスター=ウィリアムス
ルイ6世:シュテファン・ツェルニー  ほか
アーノルド・シェーンベルク合唱団、ウィーン放送交響楽団
指揮:コンスタンティン・トリンクス
演出:クリストフ・ロイ

ウェーバーはベートーヴェンと同じ時代の作曲家だが、有名な割に演奏されることが少なく、偉大なベートーヴェンの陰に隠れている。歌劇「オイリアンテ」はウェーバー最後の作品で、欧米でも上演される機会は少なく日本では当然その記録もない。

ストーリーは幸せに結婚した二人に振られて、嫉妬から復讐に走る男女が、一応成功したかに見えて結局自滅する話である。善悪の対決で悪は強く善は弱い状況で進み、最後に善が残るという筋立てはオペラに限らず芝居の常道である。「ドン・ジョヴァンニ」も「マクベス」も勧善懲悪のサムライ映画だってそうである。善が勝つから楽しめるのであって悪が勝っては気が重くなってしまう。善が滅びるものを観るには予め心構えがいる。

クリストフ・ロイの現代に置き換えた洗練された演出が素晴らしい。奥行きの深い無機質な部屋で、上手にベッド(これは愛を表す)と下手窓際にピアノ(上流社会つまり金か)があるだけで最後はベッドだけになる。極めてシンプルで白い舞台セットである。奥と上手のドアから出入りして演ずる。衣装は基本的に白と黒、全て取り除いて人間の感情表現だけに集中した演出である。だから棒立ちで歌うことは絶対ない。イタリア・オペラならもっとドロドロした感じになるが、このすっきり垢ぬけした舞台では陰湿ではなく冷酷な雰囲気が出ていた。

コンスタンティン・トリンクスは大野和士のアシスタントをしてたそうで、新国や東京フィルに客演登場したことがある。若手のオペラ指揮者で明晰で強弱が大きくストーリーの展開をよく心得た演奏であった。歌手は皆スタイルの良い若い実力者が揃っていた。オイリアンテのジャクリーン・ワーグナーは気品があってしとやかで貞淑な夫人を演じていた。ヴィブラートの少ない清く力強い声が素晴らしい。ワーグナーやRシュトラウスを得意としているそうで、ティーレマン指揮でマイスタージンガーのエファも歌っている。オイリアンテを陥れるエグランティーネ役テレサ・クロンターラーは美女なのに憎々しい悪女ぶりを上手く演じていた。男声ではルイ6世をつとめたシュテファン・ツェルニーの朗々としたバスの声が凄く印象に残った。アドラールのノルマン・ラインハルトはイケメンだし、叙情的な歌唱でオイリアンテと似合いであった。悪役リジアルトのアンドリュー・フォスター=ウィリアムスは素っ裸でかなり長く歌う場面があり、そのナイスバディ―の職業意識に感心した。ヌードの大写しはさすが避けていたから観れたが、ロイもそこまでやる必要はないと思った。シェーンベルグ合唱団のアンサンブルは特に弱音で素晴らしかった。

垢抜けした演出と歌手の熱演に魅せられた質の高い公演であった。日本語字幕がついたのも初めて観るオペラの場合特に有難く、オーストリア以外の国ではないサービスである。なおナクソスからDVDが販売されている。



2018.2.10 (ライブ収録)
出演
ドゥルカマーラ:イルデブランド・ダルカンジェロ
ネモリーノ:マシュー・ポレンザーニ
アディーナ:プリティ・イェンデ  ほか
メトロポリタン歌劇場合唱団、管弦楽団
指揮:ドミンゴ・インドヤーン
演出:バートレット・シャー

日本ではドニゼッティ=愛の妙薬でも欧米ではOne of themの感覚でしばしば上演されている。この映像はMETのアーカイブの中では比較的新しく、初めて聴く指揮者とソプラノなので興味があった。

指揮のドミンゴ・インドヤーンはベネズエラのエル・システマ(音楽教育システム)出身、ドゥダメルに続いて2人目になる。この時38歳のMETデビューでオペラではベルリン国立歌劇場でバレンボイムのアシスタントを勉めているそうである。コンサート活動の方が多いようで日本では新日本フィルに客演している。ドイツ的ながっちりした音楽をする指揮者で、この「愛の妙薬」ではちょっと重いと思う。先回観た「ドン・パスクワーレ」の後では真面目過ぎて面白味がない。

アディーナを演じたプリティ・イェンデは33歳、南アフリカ出身の黒人歌手。METには2013年「オリー伯爵」アデーレの代役としてデビューしているのでこれはロール・デビューになる。確かに高音がスカッとして素晴らしいと思う。ドゥルカマーラのダルカンジェロもネモリーノのポレンザーニも歌唱は文句なしだが、演技の方が考えてやってる感じで軽快さがない。指揮者の所為と思うがオケとも息があってるとは思えなかった。


絵画的オーソドックスな新制作だが特記することはない。歌手の声だけを聴いて想像してた方が良い印象が残ったのではと思う。

 

 


2010.11.13 (ライブ収録)
出演
ドン・パスクワーレ:ジョン・デル・カルロ
エルンスト:マシュー・ポレンザーニ
マラテスタ:マリウシュ・クヴィエチェン
ノリーナ:アンナ・ネトレプコ  ほか
メトロポリタン歌劇場合唱団、管弦楽団
指揮:ジェイムズ・レヴァイン
演出:オットー・シェンク

ドニゼッティは多作家で未完のものを含めて78もオペラがあるそうである。その中よく上演されるのは10作品程度だが、コミック系は3作品しかない。(愛の妙薬、連隊の娘、ドン・パスクワーレ) ベルカント・オペラは高度な歌唱技法が売りのオペラだから、まずはそのテクニックが優れていないと魅力がない。その一方で喜劇は歌っているだけでは面白味がないから演技力も優れていることが不可欠である。

「ドン・パスクワーレ」は金持ち老人に仕掛けられた結婚話を巡るドタバタ喜劇である。要するに笑える芝居でないといけない。それ故に主人公ドン・パスクワーレには愛嬌のある阿保ぶりが、仕掛けるマラテスタには悪知恵の働くひょうきんぶりが、それを演ずるノリーナには陽気なノリが求められる。エルンストはノリーナが好きで伯父の老人がもちかける結婚話を断り続ける真面目な役で、ドタバタの中だからそれがまた観てる者には面白い。

歌手は皆ノリノリで楽しく笑えた。タイトルロールのジョン・デル・カルロは体つきが見栄えするし演技もうまく歌唱は時に声を変えたり、聴かせどころのアジリタも素晴らしかった。マラテスタのマリウシュ・クヴィエチェンはちょっと変わった詐欺師風が面白く、パスクワーレとのアジリタの二重唱も意気投合してアンコールをやったくらいである。エルンストのマシュー・ポレンザーニは甘い声でイタリア・リリック歌手の代表的歌い方、アリアだけでなくネトレプコとの夜の庭での二重唱も素晴らしかった。

さてノリーナを演じたアンナ・ネトレプコは舞台に姿を見せた瞬間に拍手が湧いた。声が暗いし転がりも怪しげなところがあるが、それを吹き飛ばす感情の表現が素晴らしい。その上に演技力が並外れて上手い。セクシーな仕草も堂々とやるし、石膏像を投げ壊したり、パスクワーレには本当にびんたを食わしていた。やり過ぎと見えるくらいである。それと反対に生娘の恥ずかしがり様は日本風でどう見ても10代に見えた。意識的にオーバーに振舞う演技も喜劇では映える。

レヴァインのオケも軽快だったし、合唱もよく動き賑やかで良かった。それに演出もオットー・シェンクだから写実的で立派なものである。夜の中庭のセットなど短い場面なのによく作ったと感心する。

この種の軽いオペラは歌手にとってアンサンブルが難しいし作品自体も多くはないが、もっと観る機会があってほしいと思う。肩の凝らない楽しみもまたオペラの一つだから。


↑このページのトップヘ