2012.12.8 メトロポリタン歌劇場
出演

リッカルド(グスタヴ3世):マルセロ・アルヴァレス
レナート(アンカーストレム伯爵):ディミトリ・ホヴォロストフスキー
アメーリア:ソンドラ・ラドヴァノフスキー
オスカル:キャスリーン・キム
ウルリカ:ステファニー・ブライズ  ほか
メトロポリタン歌劇場合唱団、管弦楽団
指揮:ファビオ・ルイージ 
演出:デイヴィッド・アルデン

昨年3月以来1年4ヶ月にわたるMETストリーム配信もこの「仮面舞踏会」で打ち切りとなる。その間に観た映像はウィーン国立歌劇場より多い80本程になる。リピート作品もあったから多分1/3くらいは観たのではないかと思う。ピーター・ゲルブ総裁には感謝したい。

ファビオ・ルイージが首席指揮者に就任した年の公演で、演目は違うがその前年大震災直後の来日公演より締まった感じを受けた。レヴァインの後を継ぐつもりでいたかどうかは知らないが歌手もオケもよく合わせようとしていたようだった。

演出は読み替えのないちょっとヨーロッパ的香りがしてMETにしては新しさを感じた。その基本コンセプトは国王グスタヴ3世をギリシャ神話のイカロスのように自由に生きたしかしそれが頓挫した人間として描きたかったのだと思う。パネルを組んだだけのモダンな舞台だが天井には「イカロスの墜落」のルネッサンス絵画が描かれ、天井から下がるシャンデリアもイカロスの形をしている。更に小姓オスカルにイカロスの翼をつけ、国王の分身のような役割を持たせた。だからオスカルは髭をつけ男役の道化みたいな恰好をしている。この解釈は面白いと思うが、デイヴィッド・アルデンはそれ一本に絞って突き詰めることなく、舞踏会にミュージカルのライン・ダンスを入れ如何にも娯楽主義のMETらしくしている。舞台美術の芸術性とダンスの大衆娯楽が混じりあった舞台であった。

歌手は素晴らしい人が揃っていた。歌唱、演技、風貌とも役柄に嵌っていたのは伯爵のディミトリ・ホヴォロストフスキーとウルリカのステファニー・ブライズのふたり。特にブライズは出番が少ないけれども貴重な脇役として光った存在であった。国王のマルセロ・アルヴァレスはイタリアン・テナーらしい明るく力強い声が昔の声のイタリアオペラ時代を思わせた。また伯爵夫人アメーリアのソンドラ・ラドヴァノフスキーも深い落ち着いた声で気品があって良い。ただアルヴァレスは感情が今一つ伝わってこないし、ラドヴァノフスキーは若さが感じられないのがちょっと気になった。キャスリーン・キムはMETオランピアが最大の当たり役だが、男役は初めてということでこの演出のオスカルは様になっていなかった。その他合唱が素晴らしかった。

METは2021-22新シーズンの開幕が2か月後に迫ってきた。いよいよという思いで期待が膨らむ。開幕公演は9月27日アメリカの作曲家(ジャズ・トランぺッタ―)のブランチャードの新作ものとのこと。それに先立ち9月11日にヴェルディのレクイエムが演奏されコロナで亡くなった人を悼むことになっている。