2023.1.21 グリークホール・ベルゲン(operavision)
出演
パルジファル:スチュアート・スケルトン
グルネマンツ:ブランドリー・シェラット
クンドリー:リカルダ・メルベート
アンファルタス:ヨハン・ロイター
ティトレル:ラインハルト・ハーゲン
クリングゾル:オラファ・ジグルダルソン  ほか
グリーク少年少女合唱団、コレギウム・ムジカム合唱団、ベルゲン・フィル合唱団、管弦楽団
指揮:エドワード・ガードナー
演出:ニコライ・リーゼ

ベルゲン・フィルハーモニーはヨーロッパで最も古いオーケストラのひとつ。ゲヴァントハウスには及ばないがそれでも250年の歴史を持つ。エドワード・ガードナーはイギリス出身でENOなどを経て現在ロンドン・フィルの音楽監督、ベルゲン・フィルの首席指揮者である。2024年にはノルウェー・オペラ・バレエの音楽監督に就く予定になっている。

演奏会形式となっているが実質は簡素化したホール・オペラである。ステージ前方だけで歌うが演技がかなり入って棒立ちになることはほとんどない。装置は椅子とテーブル、長い赤色ソファーがあるくらいである。ステージ周りは森や教会をイメージする抽象的映像が投映されている。衣装は簡単な有合せだがそれなりに役が区別できたし、パリジファルやクンドリーはその時々の場面で着替えていた。ただ稽古場でリハーサルやってるような感じはする。

あくまで演奏会形式だから読み替えなど勿論なく台詞を視覚的に捉えられるような演出だった。宗教儀式のリアル性はないが、それでも射落とされた白鳥、聖杯、聖槍の小道具はあるし、騎士団を思わせる規律的行動も視られる。また花の乙女は花柄ワンピースで同じ柄のシーツをソファーに被せ雰囲気をガラッと変えていた。目新しく写るところはないが奇妙に思うこともなかった。ただ一つ感銘を受けたのはフィナーレである。クリングゾルと花の乙女が揃ってパリジファルの前に出て救済を受ける場面が加わっていた。パリジファルが白鳥ならぬ白鳩を高々と掲げたのは時節柄平和を表明して良かったと思う。

ベルゲン・フィルが「パルジファル」全曲を演奏するのはこれが初めてとのこと。それだけにキャストはワーグナー歌手トップクラスが揃っていた。だが残念なことに歌手全体としてそれぞれの役柄にあっていなかったり、釣合がとれていなかった。個別に言えばリカルダ・メルベートが演じたクンドリーは命令で動いている役なのに強烈な自我も持つ女のようであった。凄い声だがこれではまるでオルトルートみたいで存在が目立ち過ぎる。パルジファルのスチュアート・スケルトンも違和感があった。パルジファルには愚者、好色、自己嫌悪、悟りに聖人と色々な面があるのにちょっと一本調子の感があり、彼にはジークムントやトリスタンのように一途な役が向いてると思う。アンファルタスのヨハン・ロイターも元気があり過ぎて重傷を負った人間のようには見えない。逆にクリングゾルのオラファ・ジグルダルソンは大人しく聴こえた。元は善人が悪の道に入ったから本性かもしれないが荒い役柄を演じてはいなかった。グルネマンツのブランドリー・シェラットだけが役柄に嵌っていたと思うが、声の豊かさ力強さでは重傷のアンファルタスに劣っていた。こういう状態でどうにもチグハグであった。

指揮は前奏曲などオーケストラだけの時はゆったりしたテンポで重量感もあり素晴らしかったが、歌が入ると精彩が亡くなる。指揮者の後ろで演技をしていてはコンタクトが取れないこともあるだろう。指揮者も歌手の方を向くことがなかったから遠慮していたかもしれない。或いはリハーサルが演技の方に向いて歌唱はそれぞれに任せたのだろうか。なお大勢の合唱団は特に少年少女合唱団の声がきれいだった。

おかしな演出に惑わされることなく音楽に集中したいと思ったがちょっと期待外れだった。トップ歌手が揃っただけで良い演奏になるとは限らない。そういう例の演奏であった。