くらはしのクラシック日記

~倶楽趣博人(くらはしひろと)の随想クラシックの思い出、Cafe Klassiker Hrを受け継いだブログです~

2019年06月

2019.6.22(土)16:00 あげつまクリニック Novalium

出演:揚妻広隆(バリトン)、松山優香(ピアノ)

曲目

ヴォルフ:メーリケ歌曲集&ゲーテ歌曲集から

シューマン:「詩人の恋」全曲

 

シューベルトとシューマンを中心にしたドイツ・リートの定期デュオ・コンサート。

 

ヴォルフはカルミナ・ブラーナしか知らないから初めてでよく分からなかった。印象として似た感じの曲ばかりピックアップしたから変化に乏しく聴きずらかった。

 

しかし後半の「詩人の恋」は素晴らしくて感動した。内容的にもストーリーとして連なり分かりやすく、また音楽も聴き慣れている。最近聴いた中ではこの「詩人の恋」は一番と思う。柔らか肌の声が流れるように出てたし、感情がよく籠っていたと思う。

 

ピアノも声を消さないよう気配りしながら、且つ単なる伴奏でなく自ら音楽を作り出していた。

 

30~40名のホームコンサートならではの一体感と迫力を感ずることが出来て良かった。

デュオを始めて8年になるそうで、ヴォルフとかリヒャルト・シュトラウスのレアなドイツ・リートを身近に聴けてありがたいと思う。長く続いて欲しい。

 

東京でも開かれるので関心のある方はどうぞ。(下記チラシ)

 

揚妻松山チラシ

2019.6.20(木)16:00(現地ライブ OTTAVA)

出演 

オテロ:アレクサンドルス・アントネンコ

デズデモナ:オルガ・ベスベルトナ 

イヤーゴ:ヴラジスラフ・スリムスキー    ほか 

ウィーン国立歌劇場合唱団、管弦楽団

指揮:チョン・ミュンフン

演出:アドリアン・ノーブル

 

新制作。伝統的リアルな舞台。全体を暗くし人物だけに照明を当てる演出で、このオペラの本質である人間の嫉妬、猜疑心、狼狽などの心情心理を表現するには良い方法と思う。それだけに演技力が要求される面もある。最も印象に残ったのは終幕デズデモナの寝室。ベッドの周りにロウソクを一杯並べ、その揺らぐ明かりの中で祈る場面は哀しみを誘い美しかった。

 

3人の主役は皆素晴らしかった。ベスベルトナ はウクライナ生まれ、ウィーン国立歌劇場合唱団のメンバー、まだ30代の若い人のようで、これは大抜擢と思う。凄いソプラノが現れたものである。これからきっといろんなところで出てくると思うが、特に感動したのは演出も併せて良かった終幕<柳の歌>。ここではあまり動かなくてよいので、静かな祈りの声だけで場内の感涙を誘った。ただその前迄はアントネンコが目立つので彼に従がうだけのように見える。例えばオテロの怒りに驚いたり、狼狽えたりする場面では演技も含めてもっと感情を籠めてほしいと思った。しかしこれはカメラのなせる業で実際ホールに居たら遠くからは感じなかったかもしれない。

 

オテロ役のアントネンコは歌唱だけでなく演技面でも迫真の熱演であった。ただ冒頭オテロの第一声がちょっと弱いと感じた。ここで聴く者をどれだけ惹き込めるかが勝負のしどころだがこれも録音の所為かもしれない。

 

イヤーゴ役スリムスキー は全てに亘って調和がとれて良かった。悪役だがそれを出し過ぎると罠と分かってしまうから歌唱が控え目だったのが却ってリアルに感じて良かったと思う。

 

それ以上に素晴らしかったのは指揮のチョン・ミュンフン。この人はシンフォニーよりオペラの方がずっと向いてると思う。歌手との息が合い、表情がストーリーに合うよう実に豊かである。尤もこれはウィーンならではのことでもあるのだが。

 

2つ続けて続けてライブ放送を観た。本場物はやはり違うと思うが、もう一度観たい衝動に駆られる程でもなかった。テレビとは言え有料で観るのだから、演目とか演出面で何か新鮮味を感づるものが欲しいと思う。新人ソプラノを聴けたのは良かったが、これからはプログラムを厳選するつもりでいる。

 


2019.6.16(日)14:00 東海市芸術劇場大ホール

出演

アンドレア・シェニエ:宮崎智永、マッダレーナ:上井雅子、ジェラール:須藤慎吾
コワニー伯爵夫人:相可佐代子、ベルシ:太田亮子、密偵:大久保 亮、ルーシェ:中原 憲、修道院長:田中 準   ほか

名古屋テアトロ合唱団、東海児童合唱団、名古屋テアトロ管弦楽団

指揮:佐藤正浩
 

「アンドレア・シェニエ」と言えば学生時代NHKイタリア歌劇団の放送をラジオにかじりついて聴いた覚えがある。デル・モナコとテバルディによる日本初演であった。もう半世紀も前の話なのに、その後取っ付きにくいオペラでないにも拘らず日本では上演される機会が少ない。名古屋地区では初演かと思ったが、プログラムによれば藤原歌劇団が24年間に取り上げたとのこと。こういうレアものが地方でも聴かれるのはありがたい。

 

愛知県はアマ主催のオペラ活動が盛んである。愛知祝祭管弦楽団、三河市民オペラに続いて、名古屋テアトロが昨年「トゥーランドット」で旗揚げした。ソロ歌手はプロの力を借りるが、それも地元関係者が中心になっている。地域オペラの特徴であろう。

 

予想してたより遥かに素晴らしかった。コンサート形式で合唱だけが少し衣装をつけ演技まがいのことをする。多少ともオペラの気分を共有したかったのだろうか。オケと合唱は1年かけて仕上げただけあって不安なところが感じられず自信を持って演奏していた。コンマスの高橋 広も愛知祝祭を兼ねている人だが、アマとは思えないソロの音を出していた。

 

これは指揮の佐藤正浩によるところが大きいと思う。バリトン出身、伴奏ピアノ科修了という経歴が示す通り、歌手、オケ、合唱の全部を上手く自然にまとめ上げている。歌手には自発的に歌わせ、オケには小細工を要求せず大きな起伏のある流れを作り出している。オペラには一番適した指揮者だと思う。

 

歌手では宮崎と上井の奮闘が光った。感情の盛り込みが半端でない。ヴェリズモオペラでは上手な歌唱より感情過多で歌った方が真に迫った感じが出て良いと思う。タイトルロール宮崎は多少の難を補って余りある精一杯の熱演であった。またマッダレーナの上井も声量不足は如何ともし難いが役柄として無垢で一途な気持ちが表れていて良かった。声と歌唱では須藤が目立った。ジェラール本性の善人さは良く出てたが、気持ちの揺らぎ変化がはっきり分かるようにして欲しかったと思う。他に気付いた人では、大久保は魅力的な美しい声の持主だが密偵にしてはちょっと弱い気がする。それから太田が声に深みがあってこれから注目していこう。

 

プログラムに来年以降の予定が載っていた。それによるとトスカ、カヴァ・パリと続き、この団体はヴェリズモ路線で進もうとしているようだ。ならば負担は大きくなるが、是非暗譜で多少とも演技をつけて歌って欲しいと思う。そうすれば今年以上に盛り上がった大熱演になるだろう。

 

東海市は新日鉄の工場があるところ。10万そこそこの人口なのにこんなに立派なホールがあって素晴らしい。

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駅前にある東海市芸術劇場 1000人の大ホール 大小4つの練習室

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2019.6.9(日)19:00 (現地ライブ 
OTTAVA)

出演

マノン:ニーノ・マチャイゼ、騎士デ・グリュー:ファン・ディエゴ・フローレス 

レスコー:アドリアン・エレート、伯爵 デ・グリュー:ダン・ポール・ドゥミトレスク  ほか

ウィーン国立歌劇場合唱団、管弦楽団

指揮:フレデリック・シャスラン

演出: アンドレイ・セルバン

 

ウィーン国立歌劇場のライブストリーミングがOTTAVAのオン・デマンドで観られるようになった。歌劇場のサイトから直接観ることは出来るが、時差で夜間になるのと回線の混雑か途中でしばしば途切れてしまう。今回トライしてみたが、日本語字幕も付くし映像も鮮明で音もきれいに聴こえた。現地ライブが終わった後3日間、1650円で、この期間なら何度観てもよい。これは有難いと思う。

 

さて「マノン」のこと。レパートリー上演だがキャストの良さに魅かれて観る気になった。しかし期待し過ぎた所為かそれほどでもなかった。勿論悪いわけでないが、その前日にNHK-bsで放送されたばかりのウィーン国立歌劇場公演、フローレスとペレチャツコの「ルチア」を観た後では分が悪い。演出はごく普通、装置はよく出来ているが全体が暗いし、変わり映えしなくて何も言うことがない。フローレスもマチャイゼも表情をつけて歌ってるけど感情が今一つ伝わってこない。滞りなく終わったという感じだった。

 

「マノン」の作品自体によるところが大きいように思う。各幕の間で時のギャップがあり過ぎて単に異なった場面をつなぎ合わせたような構成になっている。物語として幕を追う毎の感情の盛り上りに欠けると思う。

 

フローレスの若い頃、あの華やかで艶のある強い声は余人を以て替え難い存在であった。しかし年齢と共に声が変わってきて、それに合わせるような形で成長していかなければならない。フローレスは今その過渡期にあるのだろう。今年暮れ来日するが何を歌うのか注目です。

 

ところでライブストリーミングはウィーン国立歌劇場公演のすべてを流すわけでない。6月の予定を見るとどうもポピュラーなものが多いようである。新制作とか記念公演とか今シーズンの目玉となるようなものを取り上げて欲しいと希望する。


2019.6.8(土)15:00 フェスティバルホール


出演

サロメ:リカルダ・メルベート、ヘロデ:福井 敬、ヘロディアス:加納悦子、ヨカナーン:友清 崇、ナラボート:望月哲也、ヘロディアスの小姓/奴隷:中島郁子 ほか

大阪フィルハーモニ交響楽団

指揮:シャルル・デュトワ

 

期せずして「サロメ」の東西対決。東京二期会の評判も良かったようだが、こちらも稀にみる素晴らしい公演だった。

 

完全なコンサート形式。歌手は礼装、譜面を前に置いて演技は一切なし。これが却って良かった。私は「サロメ」の舞台上演があまり好きでない。理由は、リアルにやれば気味悪過ぎ、可笑しな読み替えをしようものなら音楽が損なわれる。ハイライトとも言うべき<七つのヴェールの踊り>をとってもこれまで満足したものがない。ポルノでないエロティシズムを表現できないものかと思う。歌手に要求するのは無理かもしれないが。

 

一番の功労はデュトワの指揮だと思う。数年前N響を振った時の映像も観たが実に上手い。豊潤華麗な音とダイナミクさ、何より洗練された表情付けが本当素晴らしい。「サロメ」など最も適した曲ではないかと思う。特にヴェールの踊りなどオケだけの時の演奏は凄かった。大阪フィルも私の知る朝比奈時代とは似ても似つかぬ音を出していた。尾高忠明が病気治療のため降板し、驚いたことにデュトワの登板となった。スキャンダルで多少時間的余裕が出来たか、お陰で私たちは幸運に恵まれたことになる。(尾高の早い回復を祈ると共にセクハラとか容認するわけでないこと勿論である)

 

サロメを歌うメルべートは声も表現力もさすが別格。ステージ上の大編成オケを背にしても決して打ち消されない。加えて凄いのはその時々の場面に合わせて歌い方を変えていること。ヘロデの目から逃れてきた時のホット感、ヨカナーンへの関心、激白、陶酔へと移る感情の変化、細かいことを言えばヘロデに対する執拗な要求<ヨカナーンの首を>もその都度声が変わっている。全く一人舞台の感であった。

 

日本人歌手も皆よく頑張って素晴らしかった。中ではヘロデの福井。普段クセのある歌い方が気になるが個性的役ヘロデには嵌っていたと思う。ヨカナーンの友清も感情に走らず沈着な歌い方が役に合っていた。ただバックステージからの声はマイクを使っていたのかしら。ステージ上と同じように聴こえた。ヘロディアスの加納は何時も端正な歌唱が良いが、この強い個性役にはちょっと向いてないように思う。

 

もう建ってから大分経つがフェスティバルホールに初めて行った。ここは観光名所にしてもよいくらい立派。河畔公園から見た外観、とてつもなく長いエントランス、星が輝くような吹き抜けの広いロビー。音響は今日のコンサート水準からは普通だが良く響く。2階上手側で聴いたが、音がよく混ざって聴こえオケには最適、だが人の声はどうしてもボケる。舞台上演オペラでピットに入ったらどうなるかはわからない。

 

指揮はフランス、タイトル歌手はドイツ、その他演奏家は日本、会場は大阪フェスティバルホール。正に文字通り大阪国際フェスティバル。あっという間に過ぎた2時間でした。


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河畔から見た外観

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正面中央階段

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ホールへ向かうエスカレーター

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吹き抜けのロビー




この頃老人の運転ミスによる事故が毎日のように報道される。他人事でない。私だってこの6月で80歳を迎える。ひと月ほど前に認知症検査と運転適性検査を受けてきた。両方とも問題ないレベルではあったが、指摘されたことがいくつかある。一番の問題は視力の低下。若い頃に比べると視野角度が狭くなっているし、明るいライトを浴びた後の視力が回復せずテスト中止になってしまった。(半数以上がそうでした) 免許返上は出来ないので、日中近場の経験ある道しか乗らないようにしている。

 

視力だけではない。音楽を聴くのに聴力が衰えるのは痛い。弱音とくに低音が聴こえずらい。「ラインの黄金」や「未完成」の出だしのコントラバスやチェロの音が聴こえない。会話でも子音が聴き分けられなくて、例えばトヨタシがトヨハシに聴こえてしまう。

 

最近コンサートに出掛ける回数が減ってきた。名古屋中心部まで1時間の各駅停車しかない地方都市に居ては体力の低下が応えるようになってくる。東京へ出るのも新幹線に乗るまでが大変。でも音楽がなければ生きる楽しみも亡くなってしまうから頑張ろうと思う。

 

ウィーン・フィル、ベルリン・フィルを初めて聴いてから60年になる。この2大オケが11月に来日し、1週ずれで名古屋で演奏会がある。しかも曲目は両方ともブルックナーの8番。こんなことは一生で一度しか起こりえない私の音楽歴でも最高の年であろう。何としてもチケットを確保しなくてはならない。

 

そういえば10年程前新国から帰る電車の中で80歳の大阪から来た男の人と話をした。また別の時に戦時中勤労奉仕で名古屋にいた90歳の夫人と言葉を交わした。私もその仲間に入ることになったが、運転にはよくよく注意するとして、気持ちだけは若いつもりでいる。そうなくちゃ人生楽しめません。


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