2020.2.15(土)19:30 (現地ライブ OTTAVA)
出演
クリュテムネストラ:ヴァルトラウト・マイヤー
エレクトラ:クリスティーヌ・ゲルケ
クリソテミス:シモーヌ・シュナイダー
オレスト:ミヒャエル・フォレ
エギスト:ノルベルト・エルンスト
ウィーン国立歌劇場合唱団、管弦楽団
指揮:セミヨン・ビシュコフ
演出:ウヴェ・エリック・ラウフェンベルク
Rシュトラウスならウィーン、ウィーンならRシュトラウスと思ってる者にとって見逃すことのできない「エレクトラ」。2015年のプレミエである。先頃の「サロメ」が超一流の歌手を揃えながらちょっと不満が残ったのに、今回は打って変わって熱の入った公演であった。舞台セットが観念的だったこともあり、歌唱の素晴らしさが観る者を惹きつけた。
舞台は宮殿の石垣と壁で真っ黒。下手に白タイルの浴室、上手奥にエレベーターが2台並んでいる。エレベーターのドアーには「殺した」と朱の落書き。衣装もエレクトラは黒一色。何か不気味な雰囲気である。
Rシュトラウスの中でも大編成のオケを必要とし、しかも情緒など全くない過激な音楽だから、ドラマティックな歌手が揃わないと成り立たない。今回はワーグナー歌手の競演で人間業とは思えない大迫力の演奏になった。ストリームで聴いていてもその声量が想像できる底力のある歌唱であった。
特にタイトル・ロールのクリスティーヌ・ゲルケは低音がドスの効く声で感情を爆発させ、エレクトラの狂気じみた役を見事に演じ切った。今年バイロイトでブリュンヒルデを歌うことになっている。クリソテミス(エレクトラの妹役)のシモーヌ・シュナイダーは若い頃コロラチューラだったが今はジークリンデまで歌うようになっている。エレクトラとは性格的に反対の大人しい役だが、ゲルケに負けまいという歌いっぷりであった。この二人は声を荒げてまで感情を出していたので一般の聴衆は引き込まれてしまう。彼等より10歳は年長のヴァルトラウト・マイヤーとミヒャエル・フォレはさすがにそこまで感情的になり過ぎずきちんとした正統の歌唱で存在感を感じさせた。
演出上の解釈として最も強い印象を与えたところがある。それはエレクトラとオレスト(姉と弟)が禁断の恋仲にあること。エレクトラの台詞に臭わせるところがあるが、二人の再会時にセックス場面を入れることでその関係を明確に表した。またフィナーレではエレクトラが踊りながら倒れることになっているが、そこは一人そっと抜け出してしまう。オレストに逢うためと思わせる。となるとクリソテミス(妹)がオレストと叫ぶのも、彼女もまたオレストを慕っているのではと思わせる。近親相姦は古代の世界では珍しくもないが、実際のギリシャ神話ではエレクトラは従弟と結婚したことになっている。
その他ストーリーとの具体的関連がよく分からないところもある。冒頭いきなり浴室に血塗られた女が何人か立っている。エレクトラの父アガメムノンが殺された事件を思わせるためであろうか。またクリュテムネストラ(母)が車椅子に乗ったり、本物の犬が出てきたりするが一体何が言いたいのか別になくともいいような気がする。エレベーターもその類だが単に舞台上の見栄えを面白くするためかもしれない。
以上不可解なところもあるが全体としてはよく読み込んだ良い演出と思う。歌手が揃いながらいい時も悪い時もあるというのは指揮者のせいもあるだろう。その点セミヨン・ビシュコフはワーグナーやRシュトラウスを良く振っているから手慣れたものである。今回の素晴らしい演奏は彼のお蔭でもある。
これでしばらくウィーンのストリームは休みにします。舞踏会があったり演目の興味がなかったりで、再開はリング・チクルスからのつもり。