2018.3.10 (ライブ収録)
出演
セミラーミデ:アンジェラ・ミード
アルサーチェ:エリザベス・ドゥッショング
アッスール:イルダール・アブドラザコフ
イドレーノ:ハヴィエル・カマレナ
オローエ:ライアン・スピード・グリーン
アゼーマ:サラ・シェーファー ほか
メトロポリタン歌劇場合唱団、管弦楽団
指揮:マウリツィオ・ベニーニ
演出:ジョン・コプリー
驚くべき「セミラーミデ」であった。ソリスト、合唱、オケの見事さと舞台衣装、セットの豪華さ、どれも素晴らしい出来栄えでオペラの醍醐味を満喫した。これがどちらかと言えば若手を中心にした2年前の新制作だからMETの底力は凄い。
昨日に続いてのロッシーニ、METの「セミラーミデ」はこれが2度目の制作と言う。フランスの文学者ヴォルテールの悲劇に基づいているが、「アルミーダ」と同じくヘンデルのオペラもある。もっともヘンデルの方が100年も前であるが。古代バビロニア時代、夫を殺して女王となったセミラーミデが行方不明になった息子をそれと知らず好きになってしまうという話である。それにいろいろと枝葉がついて長大な作品となっている。
歌手ではまずタイトルロールのアンジェラ・ミード。高低音どこでも淀みなく声が出てコロラチューラの技術も歯切れが良い。声だけ聴けば実に上手いと思うが、巨漢だから今の時代役柄が限定されるのが惜しいと思う。息子アルサーチェを演じたエリザベス・ドゥッショングの歌唱力も素晴らしい。低めの声で重量感がありズボン役軍司令官にぴったりであった。男声の方は息子の許婚者を好きになったイドレーノ役のハヴィエル・カマレナは鮮やかな声でハイCを連発した。フローレスの陰になっているがもっと知られて良いテナーである。セミラーミデと組んで国王を殺したアッスール役は分の悪い悪役だが、イルダール・アブドラザコフ端正な歌い方でロッシーニに相応しいと思った。さらに事実をすべて知っている祭司長オローエ役のライアン・スピード・グリーンは凄みのある声のバス、シチュエーションにより歌い方を変えていた。登場人物の役を知っただけでも話の複雑さ想像できる。
大勢の合唱の素晴らしさも見逃せない。ステージ一杯に衣装を揃えて並ぶ姿は壮観でもあった。でもやはり一番は指揮者だと思った。マウリツィオ・ベニーニはイタリア・オペラの名匠、中でもベルカントが得意でロッシーニ・オペラ・フェスティバルにも呼ばれている。ロッシーニの軽快さも迫力も歌い回しもすべて心得てオケを自在にリードしていた。
舞台は絵画的美しさがあった。周りを高く囲んだセットだが色彩に高級感があり衣装が豪華さを引き立てていた。歌手はステージに出る時に目を見張るが、後は細かい演技は殆どなく棒立ちで歌う。昔のイタリア・オペラを豪華にして観てるような感じであった。
今一番勢いのある人たちを集めた、滅多に聴けない公演。オペラはやはり歌手だと改めて思った。