2023.5.7(日)14:00 アイプラザ豊橋 
出演
アンドレア・シェニエ:笛田博昭
カルロ・ジェラール:今井俊輔
マッダレーナ:小林厚子
ペルシ:加藤のぞみ、コワニー伯爵夫人:谷口睦美、密偵:中井亮一  ほか
三河市民オペラ合唱団、オオミナオバレエスタジオ、セントラル愛知交響楽団
指揮:園田隆一郎
演出:高岸未朝

三河市民オペラの旗揚げ公演は2006年のこと。それから3~6年の間を置いて着実な発展を続け今年は5回目になる。一躍全国的に評価が高まり有名になったのは前回の「トロヴァトーレ」だったと思う。その時から園田さんが指揮を執り、オーケストラもプロのセントラル愛知がピットに入り、日本トップレベルの歌手が揃うようになった。こうなると舞台に上がるアマチュアは合唱とバレエだけで市民オペラとは何ぞやと思うかもしれない。基本はオペラの企画制作運営をアマチュアが行うということである。主たる目的が少し変わってきて演奏よりもマネージメントに重点が移った気がする。それとてプロの力を借りなければ出来ないこともあり、例えばキャストのオーディションにしても公開で行い、そこには一般の審査員が多く加わって最終的に指揮者と演出家が決定するという。つまりオペラというひとつの行事をプロの協力を得て市民の手で行うということであり、やってもらうのでなく自分たちでやろうという姿勢なのである。この市民の熱意がプロの熱演につながっている。

選んだ演目が「アンドレア・シェニエ」とは目の付け所が凄いと思う。「椿姫」や「蝶々夫人」ではこれだけの注目を浴びないと思う。NHKイタリア歌劇団でマリオ・デル・モナコが歌って有名なはずなのに日本で上演されることは極めて少ない。小規模のものは除いて舞台上演としてこれが日本人だけの手による初公演ではないか。藤原や新国が取り上げているが指揮や歌手に外国人が入っている。ダブルキャストによる2回公演だったが両日とも満席。プロの団体はこの事実をしっかり見て欲しい。


演出は特に変わったところがないが、各幕始めにフランス革命当時の状況がスクリーンに説明され初めて観る人にも分かり易い配慮がされていた。舞台セットは貴族社会の崩壊を意味する傾いた石柱をベースに映像を使ったもので基本的に4幕共通、配置換えと照明で舞台転換をしていた。装置の製作より合唱、バレエを含めて70~80人分の衣装をこしらえる方が大仕事だったと思う。

歌手では笛田さんが絶好調で声が飛び抜けて際立ち最高の出来栄えだった。表現力に磨きがかかり、あとは演技力に一工夫欲しいところだがそれは演出家の仕事でもあると思う。小林さんも好演だった。時に声の肌合いが変わるところが気になったが感情表現のひとつと思えばよいか。ただ笛田さんとの二重唱では声量が劣るのはどうしようもない。今井さんも随分気張っていて素晴らしかった。最後に無理がたたったのが残念。召使役の加藤さんは娼婦になった時の声がよく飛んできて動きも良かったと思う。密偵の中井さんはいつもの輝かしい声と細かい仕草が役者だと感心する。その他子役に至るまで全員が役に没頭し気の抜けたところが少しもない大健闘だった。こういうのは観てて気分が良い。

合唱はコロナで十分な練習が出来なかったと思うが、3幕民衆裁判の場は凄い迫力で気持ちが入っていたのがよく分かった。オーケストラも弦・木管がきれいだったし、目一杯音量を出したフィナーレもドラマチックであった。園田さんのオペラ専門家らしい指揮で個性的ではないが全体を上手くまとめ上げた演奏と思う。

前回「トロヴァトーレ」の大成功を思い出す素晴らしい「アンドレア・シェニエ」であった。芸術的意見は専門家にあるだろうが、一般のオペラファンが楽しむには新国、藤原、二期会などと何ら変わらない。舞台に上がるオペラ歌手も指揮者も同じ土俵同じ番付だから当然である。市民オペラと称するものは他にもある。例えば藤沢市民オペラは質の高い公演を行っているが、こちらはマネージメントに芸術監督や市役所職員も入った公益財団が行っているもので完全アマチュアの三河市民オペラとは違う。だから次は何時何をの計画は白紙である。ゼロからスタートするので毎回新しい気持ちで臨めるのであろう。観る方はじっくり待たせてもらうことにしよう。