2019.9.12(木)18:30 (現地ライブ OTTAVA

出演

フィリッポII世:ルネ・パーペ、ドン・カルロ:ファビオ・サルトーリ、

ロドリーゴ:サイモン・キーンリーサイド、大審問官:ドミトリー・ウリヤノフ

エリザベッタ:ディナーラ・アリエヴァ(アンニャ・ハルテロス降板)、

エボリ公女:エレーナ・ツィトコーワ ほか

ウィーン国立歌劇場合唱団、管弦楽団

指揮:ジョナサン・ダーリントン

演出:ダニエレ・アバド

 

ヴェルディの中で「ドン・カルロ」は好きなオペラのひとつだがちょっと特異だと思う。第1に長い。今回の一番短い4幕イタリア語版でも3時間かかる。第2にもろもろの出来事が盛り込まれ過ぎている。主題はドン・カルロとエリザベッタの恋物語と思うが、政治と宗教の社会問題から、個人感情でも恋と嫉妬だけでなく夫婦仲、不倫、友情まで様々絡ませている。それでもストーリーが分かり易いので変化があって退屈しない。

 

この公演で興味を持ったのは豪華な配役である。今回もキャンセルが出ていた。エリザベッタのアンニャ・ハルテロスが若手のディナーラ・アリエヴァに交代していた。調べたらまだ40前のボリショイ劇場のソリストとのこと。よくあることで仕方ないが、それでもこれだけ揃えば大したものだ。

 

主要6人中アリエヴァ、ツィトコーワ、ウリヤノフの3人がロシア系とあって、ロシアン・パワー炸裂の感があった。迫力は凄いが、日本人の感覚からすると演じてる人物の気持ちからずれてるのではと思うことがあった。例えば、終幕エリザベッタがカルロと別れる時も悲しい感じがあまりしないし、エボリ公女がエリザベッタに告白し詫びる時も怒ってるように聴こえてしまう。また大審問官が国王を脅迫して諫める時は宗教の権力と納得しても盲人らしくはなかった。

 

その点パーペは国王の権力だけでなく個人の怒り、つらさ、悩みがよく出ていたし、キーンリーサイドもドン・カルロの同志と国王へのスパイ(?)を上手く歌い分けていたと思う。何といっても最高はタイトル・ロールのサルトーリ。パヴァロッティみたいな体格は外見悪いが、明るい力強い声はこれぞイタリア・オペラの醍醐味と思った。

 

何だかや言ってもこれだけ揃った歌手の熱唱饗宴は滅多に聴けるものでないし、この迫力は日本人には絶対できない。多少バラバラなところもあったがレパートリー公演として小さいところは大目に見なくてはいけない。

 

アバドの演出は読み替えなし。舞台を前側と奥側に分け周りを囲んだだけ。全体に暗いがわずかな照明の変化で場面転換をする。役者の出入りの動きはあるが、歌手の細かい演技はほとんどなし。要するに余計なものを入れない音楽中心の演出で、指揮者の息子らしいと思った。

 

ヴェルディのオペラの中で私なりに3つ選ぶと、この「ドン・カルロ」に「オテロ」と「ファルスタッフ」になる。2つとも来年上演予定になっている。さすが本場ウィーンだ。