2019.
10.2(水)19:00 (現地ライブOTTAVA

出演

オーベロン:ローレンス・ザゾ、タイテーニア:エリン・モーリー

パック:テオ・トゥヴェ

シーシュース:ピーター・ケルナー、ヒポリタ:シルヴィア・ヴェレス

ライサンダー:ジョシュ・ラヴェル、ハーミア:ラヘル・フランケル

ディミートリアス:ラファエル・フィンガーロス、ヘレナ:ヴァレンティナ・ナフォルニツァ

ボトム:ピーター・ローズ    ほか

ウィーン国立歌劇場合唱団、バレエ団、管弦楽団

指揮:シモーネ・ヤング

演出:イリーナ・ブルック

 

今シーズン6つの新制作のひとつ。演出がピーター・ブルックの娘というのが興味深い。ピーター・ブルックはイギリス演劇界の大御所で、日本でも京都賞、世界文化賞を受賞しているので親近感がある。主としてシェイクスピア劇場で活動した人だから、その娘がシェイクスピア原作のオペラを演出というのも何か縁がある。女性の活躍が当たり前の時代だが、指揮者も演出家も女性というのは珍しい。

 

すべての面でよく練り上げられていて実に素晴らしかった。メルヘンチックな舞台とオケの幻想的な響きの調和、洗練された人の動き、常に演技しながらの歌唱、何よりこのオペラの歌わない仕切り役パックを演ずるテオ・トゥヴェのアクロバット的演技、これらすべてが見事に融和している。音楽と演技がこれ程完璧に一体化したオペラを観たことがない。オペラなのに演劇を観ているようであった。

 

舞台はト書き通り。全体に暗いがほのかな明かりの中に美しい世界が広がる。衣装も照明も申し分なく、演技が上手いので退屈するところがなかった。近頃流行の映像を使わずに造り上げたのは立派と思う。

 

歌手は皆若手のようで誰も抜け出そうとせず、あくまで全体のバランスが一番と考えているようである。二重唱、四重唱、六重唱どれもよくハモって美しかった。これはプレミエのライブだから緊張感があったと思うが、若手であるが故にこれだけまとまったと言えるかもしれない。皆良かったから誰かを個別に挙げるのは難しいが、強いて言えば、妖精の王オーベロンを演ずるローレンス・ザゾが珍しく男らしい雰囲気が残るカウンターテナーで、物語として王の存在感が感じられた。また女声ではハーミア役のラヘル・フランケルが声も姿も可愛らしくて魅力的、ケルビーノやロジーナをレパートリーにしているそうで成程と思う。

 

しかし何と言っても最高の称賛を送りたいのがテオ・トゥヴェの奮闘ぶり。彫刻的男性美で(ミケランジェロのダヴィデみたい)サーカス並みのアクロバットを見せる。プロフィールを見てまた驚いた。マサチューセッツ工科大学を出た科学者で、火山や氷山に詳しいと言う。世の中にはとんでもない人がいるものと凡人は思う。

 

この成果は関係者すべてのチームワークによると思うが、中でもそれを引っ張ったのが指揮者シモーネ・ヤングと演出家イリーナ・ブルック、それに舞台を引き立てた俳優テオ・トゥヴェと思う。カーテンコールではすべての人に万遍なく拍手が送られたが、特にテオ・トゥヴェには大きかった。また演出陣がそろって喝采を浴びたのも珍しいと思う。

 

ブリテン「真夏の世の夢」はウィーン国立歌劇場では何と57年振りだそうだ。マイナーに属する作品だが、「コジ・ファン・トゥッテ」と同じく男女が元のさやに納まるハッピーエンドの話なので、この演出でレパートリーに加えたら良いと思う。その「コジ・ファン・トゥッテ」も来年5月新制作公演の予定になっている。

 

とても良かったからもう一度観たいと思う。

 

なお舞台写真はウィーン国立歌劇場のサイトで観ることができる。

https://www.wiener-staatsoper.at/en/season-tickets/detail/event/969254834-a-midsummernight-s-dream/