2019.
11.7(木)18:45 愛知県芸術劇場コンサートホール

出演

クリスティアン・ティーレマン指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

曲目

ブルックナー:交響曲第8番 ハ短調WAB108(ハース版)

(アンコール)

ヨーゼフ・シュトラウス:ワルツ「天体の音楽」作品235

 

聴き続けたい交響曲として唯一残ったブルックナー、その中でも8番は特別のものである。ウィーン・フィルとベルリン・フィルが来日し、1週間をおいて共に8番を演奏するまたとない機会が訪れた。私にとって海外オケのコンサートは多分最後かと思うが、それがブルックナー8番とはこの上ないプログラムとなった。

 

ティーレマンは長老を除いて現在最も人気のある好きな指揮者、重厚壮大でドイツものにかけては特別だと思う。休止を入れたり、特異なアクセントを付けたりで一層の緊張感を創っていると思うが、中にはそれが嫌味と思う人もいるようである。しかし今回のブルックナー8番を聴いて、そういう感じは全くしなかった。

 

大河のごとく大きな起伏をつくりながら滔々と流れていく。大地が盛り上がってくるようなクレッシェンドは相変わらずの凄さだが、よくやるティンパニーの強打など驚かすほど飛び離れたものでなかった。むしろ第3楽章の弦やホルンの美しさの方が引き立った。全体に音楽が途切れることなく自然に続き、これぞ神がかったブルックナーと思った。

 

今回初めてP席に座った。初めて気付いたことに指揮者の一挙手一動を(目や指先の動きまで)つぶさに観ることができ、指揮者の意図もオケがどのように敏感に反応するかもよく分かって勉強になった。この様子を見るとティーレマンとウィーン・フィルの相性が良いと言われるのも納得がいく。

 

アンコールは今年のニュー・イヤー・コンサートを思わせるシュトラウスのワルツ。踊るワルツでなく音楽の美しさを引き出すティーレマンのワルツで、これはこれで面白かった。最近ティーレマンはオペラでもワーグナーやリヒャルト・シュトラウスだけでなく、プッチーニとかカールマンなども振っている。それも悪くないが、昔の巨匠のように焦点を絞った人が今日いたら、それはそれでまた貴重な存在になると思う。商業主義には乗らないが。

 

私の長い音楽履歴のなかで、バイロイトのリング以来の記憶に残るコンサートであった。興奮はしなかった。単にティーレマンとウィーン・フィルが素晴らしいと思うだけでもなかった。ただただ大きな宇宙的壮大さの中に自分がいた。初めてのヨーロッパ、ミラノのドウモの中にじっと座り込んだ自分を思い出した。