2019.12.28(土)19:30 (現地時間 Staatsoper TV)

出演

ゲルダ:バーバラ・ハンニガン

カイ:レイチェル・ウィルソン 

祖母 / 老婦人 / フィンランドの女性:カタリーナ・ダライマン

雪の女王 / トナカイ / 時計:ペーター・ローズ

王女:キャロライン・ウェッターグリーン

王子:ディーン・パワー

森のカラス:ケヴィン・コナーズ

城のカラス:オーエン・ウィリット

バイエルン国立歌劇場合唱団、管弦楽団

指揮:コルネリウス・マイスター

演出:アンドレアス・クリーゲンブルク

 

アンデルセンの童話「雪の女王」を同じデンマークの現代作曲家アブラハムゼンがオペラ化したもの。バイエルンの今シーズン新制作で英語版、作品自体はデンマーク語で昨年10月別のキャストと演出によりデンマーク王立歌劇場で初演されている。お馴染みの話でこの時期上演されるからにはてっきり子供向けのメルヘン調のものと思った。しかし予想は外れ大人向けの読み替え演出だったが、音楽は聴き易くなかなか素晴らしい公演だったと思う。

 

簡単に言ってしまえば、雪の女王に連れ去られたカイを探してゲルダが旅に出、幾多の苦難に逢いながらも助けられ、女王の宮殿に辿り着いてカイを救うという童話。クリーゲンブルクは彼等を子供ではなく青年とし、カイを精神病で自己喪失した聾唖と読み替え、童話の出来事はすべて精神病院で起こる幻想として描いている。カーテンコールに出てきたクリーゲンブルクは自ら障害を持つ身でこの発想を思い付いたのかもしれない。

 

幕は開いたままいきなり病室の廊下。中からゲルダが出てきて悲しそうにうずくまる。看護婦が病室に入って場面が変わると、下手に祖母が二人の子供に童話を聞かせ、上手にカイがベッドに横たわる。この前座はこれから始まる話を想像させてなかなか良いと思う。(ただ後で分かったが) ところがこの後ゲルダとカイにはそれぞれ黙役が登場し、子供時代と幻想の中の役を演ずる。現実と幻想の役者が複雑に入り乱れて分かり難いがまあ小さいことと思う。一面に敷き詰められた真白の綿と寒々とした青い壁は雪景色だけでなく病の冷酷さも表しているようで極めて美しい舞台である。真ん中が飛んでしまうがフィナーレの締め方も感動的。病が癒えて雪の中を戯れる光景、病室で大勢から祝福されて抱擁するシーンは「ほんと良かった、幸せはこれからよ」と言ってるみたいで胸を打たれた。

 

ハンス・アブラハムゼンは1952年生まれだが作曲活動は止めたり再開したりで順調というわけではなかった。作品数も多くはなく室内楽から始まり、オーケストラに進み、「雪の女王」は初のオペラ作品である。透明な響きと哀愁を帯びた簡素なメロディーで繰り返しが多い。ゲルダを歌ったバーバラ・ハンニガンはアブラハムゼンお気に入りの声でこの「雪の女王」も彼女と協力して作曲したという。ちなみにベルリン・フィルで演奏された彼の代表作 Let Me Tell You は彼女に捧げられている。アブラハムゼンの音楽には女声の方が似合うと思う。もう一人の主役カイを歌ったレイチェル・ウィルソンの声も清らかで良かった。

 

このところウィーンとバイエルンの新制作現代オペラを続けて観たが、バイエルンの方がずっとオペラらしく、音楽もきれいであった。ただバイエルンTVはネット回線が良くないようだ。それと日本語の字幕がないのは仕方ないが、文字が読み難いのは困る。無料だからあまり文句は言えないが、以前から全然改善されてないのはやはりドイツと言うべきか。