2020.2.8(土)14:00 愛知県芸術劇場 大ホール

出演

リゴレット:須藤慎吾

マントヴァ公爵:笛田博昭

ジルダ:佐藤美枝子

スパラフチーレ:伊藤貴之

マッダレーナ:鳥木弥生  ほか

藤原歌劇団合唱部、セントラル愛知交響楽団

指揮:柴田真郁

演出:松本重孝

 

先週の東京に続き名古屋での打ち上げ公演。イタリア・オペラらしい歌唱重点の好演であった。

 

「リゴレット」は父娘の愛情を中心に、他はその二人に対比する人物として描くのが良いと思う。しかし台本はその人達もまた父や娘と同じように悩むことになっている。つまり恋、家族愛、金銭などを普遍的で共通の問題として扱っている。人間本質からは確かにそうだが、物語構成としては焦点がなく散漫になる。普通善人悪人を明確にする演出が多いと思うが、ここはむしろ台本通りでそれが随分弱められていると感ずる。

 

ごく普通の伝統的演出の部類に属する。広い舞台は壁と階段だけで造ったような簡単なセット。いかがわしい居酒屋も上手に設けた骨だけの小さな小屋。見た目は如何にも貧弱に見える。衣装が立派だったので余計ちぐはぐを感じた。またヨーロッパの伝統的演出と比較しても過激な表現を避けた日本的保守的な舞台であった。正直可もなし不可もなしと言ったところ。

 

ということで関心は音楽だけである。指揮の柴田真郁は声楽出身で歌唱を最重視していると思った。最後の音を限界まで伸ばすなどして情感を盛り上げていた。またオケの音量も歌の有無で大きく変えているのがよく分かった。ただしオケだけの演奏では生き生きした良い響きを出していたが、伴奏となるとどこか無神経なところがあると思った。

 

ソリストではまず第1に須藤慎吾が素晴らしい。これがロールデビューとのこと。気合の入った歌唱と、演技では終始前屈みで衆目を独り占めするような熱演であった。佐藤美枝子はジルダ役がオペラデビューだったそうだ。日本デビューはそれより後チャイコフスキー国際コンクールで第1位を獲得した後だが、表現力はさすが抜群である。ただソロは素晴らしいが笛田や須藤と一緒では声量不足を感ずる。笛田の存在感はやはり凄い。他の人とは別格の声がこの大きなホールの隅々まで力強く響き渡る。この日は調子が良くなかっららしく所々でひびが入ったのは惜しかった。声を売り物にする彼にはもう少し楽にセーブすることが出来ないらしい。スパラフチーレの伊藤貴之は初めて悪役を聴いたが、豊かな声できつい表現も出来て良かったし役柄が拡がったと思う。その他の歌手も藤原歌劇団の底力を示す好演でこれから一層活躍されると思う。

 

ヴェルディの中で「リゴレット」は好きでないし、最初キャスト表を見た時全体に役柄に合わない人が多いのではと思った。しかし演出が一面的解釈をとらないマイルドなものだったこともあり、それが杞憂になった好演であった。

 

来年の演目はまだ発表されていないが、ポピュラーものにとどまらずもっと範囲を拡げてもらいたいと要望する。