2019.11.23(ライブ収録)

出演:

アクナーテン:アンソニー・ロス・コスタンゾ

ネフェルティティ:ジャナイ・ブリッジス

太后ティイ:ディーセラ・ラルスドッティル   ほか

メトロポリタン歌劇場合唱団、管弦楽団

指揮:カレン・カメンセック

演出:フェリム・マクダーモット

 

フィリップ・グラスはアメリカの現代作曲家。「アクナーテン」はMET初演になる。2011年にガンジーの半生を描いた「サティアグラハ」を観たからこれは2作目になる。短いフレーズの繰り返しばかりだが意外に訴えるところがあり、聴き終わった後暫く音が耳から離れなかった。

 

「アクナーテン」は紀元前14世紀エジプト王朝アクナーテン王の生涯を描いたもの。黄金のマスクで有名なツタンカーメン王の父王に当たるファラオで、それまでの多神教から太陽神アテンだけを信仰する宗教改革を行ったが、民衆などの反感によって殺害され、子のツタンカーメン王になってすぐ元の多神教に戻ってしまった。

 

このオペラも「サティアグラハ」同様、歌手の台詞で物語が進行することはない。要所で語りが入るが、それ以外は字幕がないし舞台を観て想像することになる。音楽は砂浜に波が打ち寄せては返っていくような感じで、強弱緩急の少ない音の繰り返しが延々と続く。音だけなら退屈するところだが、舞台を観ているとメロディーと言うより効果音のように聴こえ眠くなることはなかった。

 

歌手ではタイトルロールのカウンターテナー、アンソニー・ロス・コスタンゾが女声のようにきめ細かい清らかな声で何とも素晴らしい。太陽神アテンに祈るアリアが一際目立った。スキンヘッド、重そうな衣装で超スローモーの動き、歌唱も速いパセージがない。ここまですべてが遅いと緊張を強いられると思う。王妃ネフェルティティのジャナイ・ブリッジスの太く深い声も良かった。アクナーテンとの2重唱はその対比がよく出て、男女逆様にすら感じた。この場面は視覚的にも素晴らしく、二人が長い真っ赤な衣装を引き摺りながら舞台両袖から入って対面する姿は目を見張る美しさであった。また合唱の元気がよくソロ以上に活躍の場があるが、言葉が分からなくともその場の雰囲気は察しが付いた。

 

この公演で最大の見所は隙のない舞台の美しさだと思う。古代エジプトの壁画が額縁の中で踊っているような感じでゆっくり動く。それと反対にボールやバトンを使ったジャグリングの曲芸には驚いた。民衆の楽しそうな気分や反抗する様子を表現していて凄く面白いと思った。それが全幕で頻繁に出てくるので落としはしないかと心配になったが上手いものである。

 

フィナーレではアクナーテンが美術館に展示され、死んでも現代の歴史の中で生きていることを表現して、これも面白いアイデアと思った。なおベルリン美術館には美女の王妃ネフェルティティの胸像があるそうである。

 

(追)

世界初演は「サティアグラハ」が1980年、「アクナーテン」が1984年、いずれもロッテルダムである。