2013年 (ライブ収録OPERAVISION

出演

アッシェンバッハ:ジョン・グラハム・ホール

旅人/ゴンドリア/理髪師ほか:アンドリュー・ショア  ほか

英国ナショナルオペラ合唱団、管弦楽団

指揮:エドワード・ガードナー

演出:デボラ・ワーナー

 

コロナならぬコレラのパンデミックが題材のオペラ。原作はトーマス・マンの小説「ヴェニスに死す」だが、ヴィスコンティの同名の映画で一躍有名になった。

 

ヴェニスに旅行した作家アッシェンバッハが一人の美少年タージオに遭遇し見惚れる、いわゆるボーイズ・ラブの話である。コレラが拡がっていると聞きヴェニスを離れる決心をするが、少年のことが気になりまた手違いもあって留まることになる。そこでコレラに罹って死ぬ。表面的には何やら怪しげな話だが実はそうではなく、一人旅の初老の男の老いの寂しさを描いたものと思う。少年に何かをするわけでなく話もせずただ眺めているだけ。真偽の程は別に信長が蘭丸に夜のつきあいをさせたのとは違う。また難しく考えれば、芸術家の美の追求とは何かを考えさせる作品とも思える。

 

歌手は男声ばかり。主役のテノール、ジョン・グラハム・ホールは難しそうで聴き難い歌唱とナイーブな演技で出ずっぱり。もう一人のバリトン、アンドリュー・ショアは1人7役全く異なる役柄を演ずる。対照的に歌唱よりも演技力が要求される役である。他にも歌は入るが実質的に2人のオペラ。凄い大役で二人共大奮闘の好演であった。

 

ただ演出の方が美しくはあったがブリテンの音楽には合わないように感じた。舞台はヴィスコンティの映画を単に移し替えたものと思われた。タージオ(黙役)はなかなかの美少年、ホテル前の海辺は小屋の形から遠方の海の景色、衣装も主人公がスーツに中折れ帽、タージオは白のセーラー服、貴婦人はロングドレスと、どれもこれも映画と同じ感じであった。ブリテンの音楽はヴィスコンティが用いたマーラーの如くには感傷に浸れないのに、舞台があまりに似ていたのでつい連想して観てしまった。映画が大々的に脚光を浴びただけに、ここの演出は独自に切り離して考えた方が良いと思った。

 

ヴェニスを舞台にした映画には「旅情」もある。両者とも哀愁を帯びた名画である。かってヴェニスを旅行した時、夕日に沈む海の街を観てこれ程寂しさを漂わせる街はないと思った。名画足らしめた大きな理由と思う。



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