2012.
9.16 (ライブ収録)

エレーナ・カッツ=チェルリンによる新オーケストレーション

出演

オルフェオ:ドミニク・ケーニンガー

エウリディーチェ:ユリア・ノヴィコヴァ

愛の神:ペーター・レンツ

シルヴィア/プロセリピナ:テレサ・クロンターラー

プルトーネ:アレクセイ・アントノフ  ほか

ベルリン・コミッシェ・オーパ合唱団、管弦楽団、ダンス・アンサンブル

指揮:アンドレ・ド・リダー

演出:バリー・コスキー

 

「オルフェオ」はバイエルンの公演が退屈したと書いたばかりだが、このバリー・コスキーの演出は面白かった。以前コミッシェ・オーパの「ヴェルサイユの幽霊」を観て、ひょっとしたら何か変わったものが観られるかもしれないと思ったが、予感が的中した。

 

まずはカラフルな舞台。上から下まで一面に花が咲いた美しい楽園。そこで大集団のダンスが所狭しと踊りまくる。オケピットの前までステージを拡大しているので、そこまで埋めた時は一層賑やかになる。それに加えて黄泉の国の人形のガイコツが暴れる。文楽やマリオネットの如く操り人形がオルフェオの誘い相手になっている。エウリディーチェは出番が少ないのでこれは面白いアイデアと思った。舞台装置とダンスと人形、この3つを観てるだけでも楽しく退屈しない。

 

音楽面でも新しい試みがあった。カッツ=チェルリンのオーケストレーションによりバロックを現代の音楽にした。彼女は旧ソ連時代ウズベキスタンからオーストラリアに移住した作曲家でヨーロッパでは舞台音楽で活躍したそうである。ピットの中は映らないので分からないが、音を聴いているとアメリカやアラビアなどいろんな音楽が混じているように感じた。ティンパニーなどバロックとは全然違う迫力のある音だったし、他にも通常のオケとは違う楽器も入っていたような気がする。これも舞台の動きに合っていて良かった。

 

また音楽の神を愛の神に設定を変えたり、5幕を省略してエウリディーチェが冥土に戻されるところで終幕にした。これも劇的に効果があって良かったと思う。

 

歌手ではタイトルロールのドミニク・ケーニンガーが出ずっぱりの健闘。上半身裸になっても筋肉質でモデルのように格好が良かった。歌手は前ステージに出たりプロセニアムで歌ったりで、劇場全体を包み込むような活気があり、誰かスターが目立つというより全体としての良さが光ったと思う。

 

コミッシェ・オーパは特定の歌手を聴きに来る人は少なく、皆芝居を楽しむ為に集まっていると思う。モンテヴェルディの忠実な再現とは違うが、エンタテイメントとして非常に面白かった。格調高い本格的オペラは王道だが、一方でちょっと軽い娯楽性の強いものもなくてはならない。ヨーロッパの主要な都市では必ず両方の劇場がある。

 

これはコミッシェ・オーパらしくエンタテイメントとしてバロックの音楽を現代の日常に蘇らせた好演で素晴らしかったと思う。大いに楽しんだ。