キャスト

ジークムント:ジェス・トーマス
ジークリンデ:ヘルガ・デメッシュ
ヴォータン:テオ・アダム
ブリュンヒルデ:アニア・シリア
フンディング:ゲルト・ニーンシュテット
フリッカ:グレース・ホフマン  ほか
NHK交響楽団
指揮:トーマス・シッパース
演出:ヴィーラント・ワーグナー

8年間酷使したパソコンが壊れて買い替えることになった。それでほぼ1週間空いてしまったがその間に見逃したものもいくつかある。これは復帰後最初に観た1967年大阪でのバイロイト初の海外公演である。映像があるとは知られていたがなかなか見つからず、FBで紹介されてるのを知って早速観た。モノクロで声と口の動きが合わないから別々に撮ったものと思う。何せ50年以上前のことだから映像も音もその当時のものと思って視聴しなければならないが、記念すべき公演の雰囲気は十分に伝わってくる。

演出はヴィーラント・ワーグナー。最近のバイロイトは演出家の独善と偏見によるワーグナーの原作を無視したものが多いから、こういう時は一度過去の評価の定まった制作に戻るのが良いと思う。懐古趣味がないわけではないが、良いものは良いと理解するのが鑑賞の基本原則だと思う。好き嫌いの問題とは違う。

舞台は真っ平らで何も置いてない。背景に幕ごとにトネリコの大木、枯れ木を組んだような部屋と森、天馬が飛び交うような雲や燃え盛る炎。それもパネルに描いたか、映像で見せるだけである。舞台は極めて暗く照明をスポット的に当てている。小道具も槍、剣、斧と蜜を飲む角杯だけで極めて少ない。衣装だけはそれなりに拵えてあった。こうした中で歌手の演技を中心に進行するが、それも皆大げさな動きはない。しかし棒立ちではなく、立ち位置と仕草はよく考えられていると思った。よく見る両腕を広げたり拍子をとるような動きは一切なく、相手と向き合うとか目を合わせるとかの日常見られるような普通の姿であったし、舞台上の移動も機械的でなく感情の起伏が感じられるような動きをしていた。特に印象に残った場面としては、ヴォータンがブリュンヒルデを抱きながら告別を歌ったのが感動的だったし、ワルキューレの騎行をシルエットとして浮かび上がらせたのも美しかった。

当然のことだが歌手で現役で残ってる人は一人もいない。驚くのはキャストが滅茶苦茶に若いこと。ジークリンデ、ブリュンヒルデはまだ20代、最年長のフリッカだって46歳。ヴォータンのテオ・アダムも当時まだ41歳であった。体つきも皆若々しい。ジークムントのジェス・トーマス(40歳)は筋肉マンで両脚を曝け出しても見事だし、ブリュンヒルデのアニア・シリアは今時のオペラ歌手では見られないスリムな姿である。因みにアニア・シリアは10歳で舞台に立ち20歳でバイロイトでゼンタを歌ったという伝説の人だが、クリュイタンス、ドホナーニと結婚しヴィーラントとも関係があったといわれる。それはともかく歌唱は皆、声量の程は分からないが素直で癖のある人はいなかったと思う

トーマス・シッパースは情緒のある指揮で素晴らしかったし、N響も多分これが最初の「ワルキューレ」ではなかったか凄く熱のこもった演奏であった。

この大阪公演はバブル時代とは言えチケット代が初任給1か月分くらいだったと記憶する。今なら20万円に相当するが、実際会場で聴いた恵まれた人も今では少なくなったと思う。そんな昔の話である。

尚その時のもうひとつの演目はブーレーズの「トリスタンとイゾルデ」であったが、これも観てみたいと思っている。また「ワルキューレ」に興味のある方は次のURLからご覧ください。

 

https://www.youtube.com/watch?v=q2ICeaFM1iE&feature=share&fbclid=IwAR3d-lb5pCD2hbdrf5gmX0_aj1Bnp79Em15cbU2zCxzHPqakTj1k3f8o1VU