2012.
3.16 (ライブ収録)
出演
フランチェスカ:エヴァ=マリア・ウェストブルック
パオロ:マルチェロ・ジョルダーニ
ジャンチョット:マーク・デラヴァン
マラテスティーノ:ロバート・ブリューベイカー  ほか
メトロポリタン歌劇場合唱団、管弦楽団
指揮:マルコ・アルミリアート
演出:ピエロ・ファッジョーニ

フランチェスカ・ダ・リミニは実在の人物。13世紀ラヴェンナ領主の娘で争っていたリミニ領主の息子と政略結婚させられる。息子ジャンチョットは足が不自由で醜かったのでイケメン弟のパオロを代理に式を済ませるが、二人は愛し合い不倫の関係に陥る。それを知ってジャンチョットが二人を殺害するという事件が起きた。この話はダンテの「神曲」第5曲色欲の罪人に取り上げられ、以降多くの文学、美術、音楽の題材となってきた。最も有名なのはロダンの「接吻」である。

作曲したザンドナーニはマスカーニの弟子でプッチーニ「トゥーランドット」の補筆を受けることになっていた。これは実現しなかったが、このことからどういう作曲家は見当がつく。このオペラは彼の代表作だが、それでも上演されることはほとんどない。METでは30年ぶりとのことである。

演出は「神曲」などさらさら念頭になく、この事件を生々しいヴェリズモ・オペラにしたものと思う。舞台セットは大規模で、侍女たちが戯れる華やかな場面、攻城戦の激しく壮大な場面、その一方で兄弟、恋人への愛情、憎しみなどの人間感情を暴露するリリックな場面がある。いろいろと変化が大きく、オペラの醍醐味を楽しむにはもってこいの舞台になっていた。

歌手もさすがMETだけあってハイレベルな陣容である。タイトルロールのエヴァ=マリア・ウェストブルックはヴェリズモ・オペラの過激な感情表現はしなかったが、力強い声で美しく歌って良かった。どちらが正しいという問題ではないが、体が大きいので内に秘めたというよりは積極的なフランチェスカのように見えた。昨年急逝したマルチェロ・ジョルダーニは2015年新国のウェルテルを交通事故でキャンセルしたり、昨年のMETのラダメスも体調が悪かったりで不運な人の感じがする。しかしこの2013年のパオロでは不安も感じさせずイタリア的歌い方で素晴らしかった。兄弟のジャンチョット役マーク・デラヴァンとマラテスティーノ役ロバート・ブリューベイカーも良かったし、特に後者はなかなかの芸達者で最も役に嵌っていたと思う。侍女たちが皆美人で花を添えた。

作品自体は私の好みの合わずそれほど魅力的とも思わないが公演は良かったと思う。イタリア・オペラらしい露骨な感情表現はなかったが、METらしい豪華な舞台であった。

ここのところまたコロナの感染者が増え始めている。当初半年たてば収まると思っていたがどうも怪しくなってきた。コロナ対策をしたうえでの9月再開もこの調子でははっきりした見通しが立たない。シーズンが終わってストリーム配信も減ってきたようだし、これでは関心をオペラから室内楽に向けなければならないかと思っている。