2020.1.25 (ライブ収録OPERAVISION
出演
カチャロフ将軍:ステファン・クルト
イトウ:タンセル・アクザイベック(Tansel Akzeybek
リディア:ヴェラ-ロッテ・ベッカー
ロデリッヒ:ドミニク・ケーニンガー
タチャーナ:アルマ・サディ(Alma Sade)  ほかダンサー多数
ベルリン・コミッシェ・オーパ管弦楽団
指揮:ジョーダン・デ・サウザ
演出:バリー・コスキー

ヴァインベルガーはユダヤ系チェコの作曲家、レハールより20年程後の生まれである。ナチを逃れてアメリカに亡命したが、作品が認められず貧困で自殺した。ググっても細かな情報はあまり得られないので現在もあまり評価されていないようである。オペレッタ「春の嵐」はヒットラーが独裁政権を握る直前に初演されたが、それ以来何と87年振り二度目の上演とのことである。

ストーリーは日露戦争中の満州を舞台に日本人将校イトウのスパイ活動を描いたものである。彼は中国人料理人に変装してロシア軍に入り込みカチャロフ将軍の信頼を得ていた。一方でロシアの若い未亡人リディアと恋仲になり、彼女に気のある将軍から秘密暗号を聞き出すことに成功する。しかし貰った暗号が偽で捕らえられてしまうが、そこで終戦となる。イトウは帰国して結婚するが、平和交渉団として再び訪れリディアと再会する。そこで誤解が解けリディアは二人の生活を始めたいと話すが、イトウには一緒に来ている日本人妻がいることを知り身を引く。イトウもリディアに未練を残しながらも妻のもとに戻ろうとするが、その時妻も傍から離れて居なくなっていた。これが本筋だが、それにもう一組将軍の娘タチャーナとドイツの従軍記者ロデリッヒの恋を絡ませて面白く仕上げている。

戦争真只中の軍内部の話をオペレッタにするセンスが平和ボケした日本人には分からないが、それだけ戦争が普通の世の中であったのだろう。結末が寂しいオペレッタも珍しいと思うが、それにもう一つ驚いたのは日本人のスパイが主役になっていること。「蝶々夫人」の30年程後になるが外国オペラとしてこれも珍しい。その意味でも日本人に記憶されてよい作品と思う。

バリー・コスキーの演出は実に楽しい。役者の動き回ることと言ったらたらこれ以上ない。その中でもセリフだけの将軍役ステファン・クルトの働きが目覚ましい。この公演では明らかに舞台の牽引役というだけでなく、歌うイトウ以上の存在感がある中心役者になっている。それにダンスの見事なこと。レビュー公演でもないのに頻繁に登場し、場面転換でも舞台が空くことはない。相当練習したとみえ10人のラインダンスはよく揃っていた。その他にも中国芸のドラゴンの舞が出たりして華やかである。とても戦場とは思えない。

歌手は知らない人ばかり、歌だけでなく演技で大奮闘だった。皆マイクをつけていたがその所為かセーブしたような歌い方であった。イトウのアリアがひとつの聴きどころで、リリカルな歌唱は素晴らしかった。ただ発声がクラシックでないように感じたところがある。

音楽に感動するところは少なかったがこれ程面白いと思ったこともなかった。最も良かったのはセリフ役のステファン・クルトの笑わせる演技とダンサーの方々だと思う。カーテンコールでもバリー・コスキーほか演出陣に最も大きな拍手が送られていた。同感である。

作曲家も作品も知らない初めての演目だったが本当に笑わせる楽しいオペレッタであった。

興味のある方はこちらからどうぞ。

https://www.youtube.com/watch?v=NM6EYDhgQLg