2010.1.9 (ライブ収録)
出演
マルシャリン:ルネ・フレミング
オックス男爵:クリスティン・ジグムントソン
オクタヴィアン:スーザン・グラハム
ゾフィー:クリスティーネ・シェーファー
ファニナル:トーマス・アレン  ほか
メトロポリタン歌劇場合唱団、管弦楽団
指揮:エト・デ・ワールト
演出:ナタニエル・メリル

それほど昔でもない10年前の公演だが、今ではもう観ることが出来なくなっている豪華キャストの「ばらの騎士」である。アメリカの国民的オペラスターであるフレミングとグラハムは現在インタビューアとして元気な姿を見せているが舞台にはあまり出ていない。トマス・アレンは勿論、ジグムントソンとシェーファーもオペラベースに予定がない。とすればこれはMETの記念すべき公演である。

このナタニエル・メリル演出の「ばらの騎士」は2001年来日公演時の演目の一つであったから、少なくともそれ以前の新制作になる。如何にもMETらしい豪華な舞台である。2幕など幕が開くと同時に拍手が起きたくらいである。衣装も18世紀ウィーンを思わせるように華やかである。

音楽もこれ以上なかなか望めないと思う。その当時皆円熟した年代になっていたから味わいの深いリリックな素晴らしい歌唱である。中でもフレミングは最も役柄に合って華があり、フィナーレ3重唱のしんみりくる寂しさも感動的である。男声ではオックス男爵のジグムントソンが良い。オクタヴィアン役の長身グラハムよりもかなり大きいから見栄えがする。この役は歌唱以上に演技力が要求されるがそれも凄く様になっていた。

過去の遺産ともいえる録画はどうしても比較対象が出てくる。「ばらの騎士」にはあのクライバーとオットー・シェンクの伝説的名盤がある。舞台セットも歌手も優劣つけ難い、むしろ相対的には良いではないかと思われるが、醸し出される雰囲気は違う。指揮者とオケの違いだけでなく、歌手の個性も関係すると思う。それにその時の出演者一同の意識も影響する。これら全てが重なって全体の印象が違ってくると思われる。METのは陳腐な言い方だがアメリカ的と感ずる。

私は聴いてる最中はなるべく音楽に浸ることにしている。素人にとっては最終的には好き嫌いしかないと思うが、これはこれで名演だったと思う。