2017.1.21 (ライブ収録)
出演
ロメオ:ヴィットーリオ・グリゴーロ
ジュリエット:ディアナ・ダムラウ
マキューシオ:エリオット・マドール、ステファーノ:ヴィルジニー・ヴェレーズ
ローラン神父:ミハイル・ペトレンコ、キュピレット:ロラン・ナウリ  ほか
メトロポリタン歌劇場合唱団、管弦楽団
指揮:ジャナンドレア・ノセダ
演出:バートレット・シャー

シェイクスピアを原作とするオペラは多くの作曲家が手掛けているが、フランスが最も多い。オペラの本場イタリアがヴェルディひとりなのにフランスはベルリオーズ、トマ、グノー、サンサーンス、マルタンと5人もいる。同じラテン系なのに不思議だが、その時代は文学、絵画など文化活動一般がフランスの方が盛んであったと思われる。

話としては「オテロ」「マクベス」の方が奥が深くて面白いと思うが、音楽の美しさではこの「ロメオとジュリエット」が一番と思う。それは取りも直さず歌の魅力にある。ストーリーはロメオとジュリエットの出会いから死までを描いたもので、この二人の熱愛以外は何もないと言えるオペラである。必然的にほとんど二人だけが注目される。特に二重唱が多く節目毎つまり出会い、バルコニー、婚礼、死の場面で感動的な二重唱がある。

ロメオのヴィットーリオ・グリゴーロはイタリア人、ジュリエットのディアナ・ダムラウはドイツ人で、国が違うと気質が違い感情の表現もちょっと違ってくるように思う。グリゴーロはイタリアものとフランスものがレパートリーで感情をそのままストレートに出す方である。この「ロメオとジュリエット」は始めあまり良さが出なかったが、後になるほど真価を発揮した。特に終幕ジュリエットの墓を訪れる場面からの激情的歌唱は素晴らしかった。演技の方でも剣闘は迫力があったし、愛の場面も凄く情熱的であった。カーテンコールでダムラウを抱き上げたのも彼らしかったと思う。

一方のダムラウはドイツものとベルカントのコロラチューラから徐々にリリックに変わってきた。いつもの如く絶対に崩れない完ぺきな歌唱、感情表現でもちょっと理性が見える。10代の清純な娘を演ずるには艶が出てしまったが、そこは軽く跳び回る演技で充分にカヴァーしていた。1幕の有名なジュリエットのワルツも良かったが、それより毒薬を前に恐怖や不安を歌った場面がよく考えられて素晴らしかった。二人の二重唱はどれもこれも息があって気持ちが通じてるようであった。

他の歌手では小姓ステファーノのヴィルジニー・ヴェレーズが目に留まった。初めて知った若い人で歌は上手いし容姿がスリムで可愛らしい。来年1月ウィーンでケルビーノを歌うことになっているがこれは楽しみである。指揮のジャナンドレア・ノセダがまた素晴らしい。「ロメオとジュリエット」は初めてだそうだが、歌手を邪魔しない領域を超えて歌手を引き立てるようにリードしていたと思う。オペラ指揮者として理想的である。

バートレット・シャーの演出も伝統的ながらも新奇な創意があって良かったと思う。舞台は劇中劇のようなセットになっている。中央にかなり広い演技ステージがあって装置は基本的にその周りに置いて背景とか場面を説明している。バックはヴェローナ名所の家より立派である。歌手はほとんどの場合このステージ上で、しかもよく計算されて動くので余計に目立つ。場面転換を見せるのも劇中劇の一部になっていて面白い。例えばジュリエットの寝室を作るのに演技ステージ全体を被う大きな白いシーツをオリンピック旗を運ぶように持ってくる。またそのシーツが次の婚礼ドレスになり更に死装束になるというのも驚きの新機軸であった。

ロメオとジュリエットの愛のテンコ盛りのようだが、グリゴーロとダムラウの大熱演に釘付けになった素晴らしい舞台であった。