2008.11.22 (ライブ収録)
出演
ファウスト:マルチェロ・ジョルダーニ
メフィストフェレ:ジョン・レリエ
マルグリート:スーザン・グラハム  ほか
メトロポリタン歌劇場合唱団、バレエ団、管弦楽団
指揮:ジェイムズ・レヴァイン
演出:ロベール・ルパージュ

この映像はかってNHK-BSで放送された。その頃は生演奏に拘り、一歩譲ってテレビでもライブ中継しか観なかったので記録がない。ここに簡単に記しておきたい。

実はロベール・ルパージュの演出による「ファウストの劫罰」は小澤征爾が1999年サイトウキネン松本で上演している。関心はあったが高価だしチケット確保も難しかったので観ていない。当時のブログを見るとこのMETの演出と同じと分かった。サイトウキネンより9年も後だから共同制作ではないと思う。この場合著作権がどうか知らないが、それはともかく舞台美術の出来栄えはきっとMETの方が優れていたと推測する。

METでは映像を駆使する演出はこれが初だそうだが、その規模の大きさとか質感は並外れて凄いと感心する。4層の枡目状演技台がステージ目いっぱいに広がり、その背後に映像が映し出される。凄いのはアクロバットが大活躍すること。映像と宙吊りでの演技が完全に一体化している。例えば息をする泡の映像とアクロバットの水中遊泳のシルエット、駆ける馬と宙吊り騎士の手綱さばきなど見事という外ない。真横になって垂直の壁を歩くのが内容と何の関係があるか分からないが、サーカスを見てる感じがする。

ベルリオーズは色彩豊かなオーケストレーションが魅力だが、オペラとなるとオケの方が目立ち歌唱を食ってしまう感がある。この「ファウストの劫罰」は管弦楽曲として作曲したものを改編して劇的音楽にしたもので、本来コンサートで演奏されるものである。だから話が断片的でストーリー性が乏しいと言わざるを得ない。オペラならグノーの「ファウスト」の方が良いと思うし聴き易くもある。そういう曲だから歌としてはマルグリートの夢見るようなアリアを除けばあまり良いとは思わない。むしろ合唱の方が聴き応えがあると思う。

マルグリートのスーザン・グラハムはサイトウキネンでも歌っているが最高に素晴らしかった。歌唱だけでなくマルガリートが昇天するフィナーレで垂直の梯子を舞台てっぺんまで登ったのには驚いた。命綱があるとはいえ高所恐怖症ならとても出来ない技である。歌い始めもてっぺんだから大変な役をよくぞやったと思う。ファウストのマルチェロ・ジョルダーニは老齢の博士より若者になってからの方が声が合って良かったと思う。またメフィストフェレのジョン・レリエも声も姿も悪魔ぶりが良く似合った。

音楽よりも映像とアクロバットに目を奪われた。面白くはあったがここまでやられては音楽が二の次になる感じがしてしまう。この曲は本来のコンサートで聴いた方がベルリオーズの音楽が生きると思う。