2010.11.13 (ライブ収録)
出演
ドン・パスクワーレ:ジョン・デル・カルロ
エルンスト:マシュー・ポレンザーニ
マラテスタ:マリウシュ・クヴィエチェン
ノリーナ:アンナ・ネトレプコ  ほか
メトロポリタン歌劇場合唱団、管弦楽団
指揮:ジェイムズ・レヴァイン
演出:オットー・シェンク

ドニゼッティは多作家で未完のものを含めて78もオペラがあるそうである。その中よく上演されるのは10作品程度だが、コミック系は3作品しかない。(愛の妙薬、連隊の娘、ドン・パスクワーレ) ベルカント・オペラは高度な歌唱技法が売りのオペラだから、まずはそのテクニックが優れていないと魅力がない。その一方で喜劇は歌っているだけでは面白味がないから演技力も優れていることが不可欠である。

「ドン・パスクワーレ」は金持ち老人に仕掛けられた結婚話を巡るドタバタ喜劇である。要するに笑える芝居でないといけない。それ故に主人公ドン・パスクワーレには愛嬌のある阿保ぶりが、仕掛けるマラテスタには悪知恵の働くひょうきんぶりが、それを演ずるノリーナには陽気なノリが求められる。エルンストはノリーナが好きで伯父の老人がもちかける結婚話を断り続ける真面目な役で、ドタバタの中だからそれがまた観てる者には面白い。

歌手は皆ノリノリで楽しく笑えた。タイトルロールのジョン・デル・カルロは体つきが見栄えするし演技もうまく歌唱は時に声を変えたり、聴かせどころのアジリタも素晴らしかった。マラテスタのマリウシュ・クヴィエチェンはちょっと変わった詐欺師風が面白く、パスクワーレとのアジリタの二重唱も意気投合してアンコールをやったくらいである。エルンストのマシュー・ポレンザーニは甘い声でイタリア・リリック歌手の代表的歌い方、アリアだけでなくネトレプコとの夜の庭での二重唱も素晴らしかった。

さてノリーナを演じたアンナ・ネトレプコは舞台に姿を見せた瞬間に拍手が湧いた。声が暗いし転がりも怪しげなところがあるが、それを吹き飛ばす感情の表現が素晴らしい。その上に演技力が並外れて上手い。セクシーな仕草も堂々とやるし、石膏像を投げ壊したり、パスクワーレには本当にびんたを食わしていた。やり過ぎと見えるくらいである。それと反対に生娘の恥ずかしがり様は日本風でどう見ても10代に見えた。意識的にオーバーに振舞う演技も喜劇では映える。

レヴァインのオケも軽快だったし、合唱もよく動き賑やかで良かった。それに演出もオットー・シェンクだから写実的で立派なものである。夜の中庭のセットなど短い場面なのによく作ったと感心する。

この種の軽いオペラは歌手にとってアンサンブルが難しいし作品自体も多くはないが、もっと観る機会があってほしいと思う。肩の凝らない楽しみもまたオペラの一つだから。