2020.9.3&5 新国立劇場オペラパレス (二期会YouTube
出演
フロレスタン:福井 敬
レオノーレ:土田優子
ドン・フェルナンド:黒田 博
ドン・ピッツァロ:大沼 徹
ロッコ:妻屋秀和
マルツェリーネ:富平安希子  ほか
二期会&新国立劇場合唱団、東京フィルハーモニー交響楽団
指揮:大植英次(ダン・エッティンガー来日不可)
演出:深作健太

ベートーヴェン生誕250周年記念公演。コロナがなければ観に行くつもりであったが、指揮者が変わったり、演出もコロナ仕様、おまけに観客数半分とかいろいろ制約があって高齢者には無理と止めてしまった。幸い二期会がYouTubeで配信してくれたので観ることが出来た。

一番の興味は深作健太の演出である。「ダナエの愛」と「ローエングリン」がよく考えた素晴らしいものだったのでどう趣向を凝らすか期待して観た。しかしコロナ禍での制約があって残念ながら良い印象は持てなかった。この演出は世界を二分する壁からの解放に注目したもので、着眼点は良いのだがこなれた舞台になっていなかった。ナチスやスターリンの強制収容所、ベルリンやパレスチナの壁など、その他目に見えないものも含めて何時の時代にも抑圧の壁が存在する。それを打破しようと奮闘する姿を描くのは良いのだが、何も第2次大戦から今日までの歴史をスクリーンに映すことはないであろう。観客に理解させるつもりかもしれないが、これでは説明過多の解説になってしまう。第一舞台と説明が合致していない。オペラは解釈の結果を舞台で見せるもので文章で説明するものではない。ナチス鍵十字の腕章を見ればそれで十分と思う。

それ以上に物足りないかったのは自由解放の歓喜の感動を味わえなかったことである。大勢の合唱を舞台に出すことが出来なかったのが最大の原因と思う。ベートーヴェン第9の説明を入れたりFREIHEIT(自由)の看板を掲げたりでは如何にも理屈っぽいと思った。むしろ最近流行の映像を使った方が良かったのではと思う。序曲にレオノーレ3番を充てその演奏中役者が無言で演技したが、これは新しいアイデアとして良かったと思う。

歌手の皆さんはこの困難な状況の中でよく健闘されたと思う。演技面を除いて歌唱だけ聴いても初日の映像かもしれないが全体に今一つリアルな感情が伝わってこなかった。その中でフロレスタンの福井さんが別人かと思うくらい細くなられたので驚いたが、声の強さはひとり抜きんでていた。ロッコの妻屋さんはいつもの如くそつなく演じられていたが、必ずしも適役とは思えなかった。レオノーレの土屋さんは最近聞くようになった新進ソプラノで一番頑張っていたように見えた。大植さんは歌手とあまりしっくりこない感じがする。序曲とフィナーレは迫力があって良かったので、やはりコンサート指揮者かと思う。

この半年間ウィーンやMETを中心に100本以上のオペラ映像を観た。この状況下では致し方ないが、それに慣れてしまってこのストリームと比較するとやはり物足りなさは残る。実際会場へ行った雰囲気の中で聴くと違う印象を持つと思うが、この形態が続く限り遠出するのは控えようと思う。少しでも早く普通の公演が出来るよう祈るばかりである。

率直に厳しいことを書いたが、この困難な時によくここまでこぎつけたと思い、そのご努力に敬意を表したい。