1990.4.26 (ライブ収録)
出演
ジークフリート:ジークフリート・イェルザレム
さすらい人:ジェイムズ・モリス
ブリュンヒルデ:ヒルデガルト・ベーレンス
ミーメ:ハインツ・ツェドニク  ほか
メトロポリタン歌劇場管弦楽団
指揮:ジェイムズ・レヴァイン
演出:オットー・シェンク

「ワルキューレ」の男と女から一転「ジークフリート」は男と男の対決の場がほとんどである。だから漫然と感覚的に観ていると退屈することになるが、言い合いの内容に注意して歌唱を聴くとその場の感情の表し方が凄く面白いと思う。はじめは難しいかもしれないが、このMETのような素晴らしい歌手にかかると4部作の中でも最も聴き応えのある作品になると思う。

演出は「ラインの黄金」と同じく動物をどう処理するかだが、熊はぬいぐるみでも暗い小屋の入り口に少ししか出ないからリアルに見えたし、大蛇は(実際は竜であった)目と口と尻尾だけが動き周囲の岩とうまく溶け込んでいた。小鳥は姿も見せずジークフリートが追い駆けるようになっていた。他にもよく作り上げたと思うのは刀を鍛える場面のリアルな迫力とジークフリートが火の山に向かってブリュンヒルデを発見する時の場面転換が極めて自然に見えた。

歌手は前にも書いたようにこれ以上はない最高の陣容。ここで特に目立ったのは当然男声の方で、名前もジークフリートのイェルザレムが声だけでなく精悍なスタイルとイケメンで如何にも英雄の姿らしい。さすらい人のモリスもヴォータンの時より朗々として一層素晴らしかった。ジークフリートに槍を折られて舞台を去る後姿がとても印象的だった。ブリュンヒルデのベーレンスはどうしたか少し声のかすれるところがあったが、目覚めから歓喜に至るまでの気持ちの変化に惹きつけられた。レヴァインがこの目覚めの場面でテンポを随分と落したが、これが彼のスタイルであろう。

明日は最終日、イェルザレムとベーレンスの日になると信じている。