1990.5.5 (ライブ収録)
出演
ジークフリート:ジークフリート・イェルザレム
ブリュンヒルデ:ヒルデガルト・ベーレンス
ハーゲン:マッティ・サルミネン
ヴァルトラウテ:クリスタ・ルードヴィヒ  ほか
メトロポリタン歌劇場合唱団、管弦楽団
指揮:ジェイムズ・レヴァイン
演出:オットー・シェンク

「二ーベルングの指環」4部作の最後になる「神々の黄昏」は物語を発展させて締めくくるだけでなく、過去の出来事を想起させる部分も含む集大成である。それ故に続けて観る場合は例えばノルンの序幕などストーリー的になくても良いではないかと思う。しかし単独で上演するにはこれがあると作品の重みが違う。

演出はこれまでの3作を観て新しいものが出てくるとは思えないので音楽に集中するだけである。ただ細かいところで、アルべリヒだけは4部作の最初から最後まで登場するので時系列が分かる衣装になっていたのに感心した。

「神々の黄昏」で初登場する重要な役はハーゲンだが、マッティ・サルミネンが強烈な存在感を示して凄かった。ドスの利いた声、体格容姿とも悪役ピッタリでこれ以上の人はいないと思う。ファフナーも演じていたから都合3人も殺害したことになる。成程と思うキャスティングである。イェルザレムは「ジークフリート」の勢いをそのまま持ち続けてこなしてしまうのは何とも凄いパワーと思う。ブリュンヒルデのベーレンス、ここでは喜び、怒り、恐怖、不安、不信、寂しさ、諦観、決意とこれ程様々な気持ちの変化がある役も他にあるかと思う。持ち前の美貌美声と歌唱力それに演技力もあるベーレンスならではの魅力がある。フィナーレの自己犠牲は心の奥底に響く名唱であった。クリスタ・ルードヴィヒもフリッカよりこのヴァルトラウテの方が一層素晴らしかった。

4部作を休みを入れず4日続けて聴いたのは実はこれが初めてである。確かにこの歳になると体力的に可成りきつい。当分聴きたくないと思っても可笑しくないのだが、ますます好きになるところがワーグナーの不思議な力である。