2019.12.17&20 (ライブ収録)
出演
ホフマン:エリック・カトラー
オランピア/アントニア/ジュリエッタ/ステルラ:パトリシア・プティボン
ニクラウス/ミューズ:ミシェル・ロジエ
リンドルフ/コぺリウス/ミラクル/ダッペルトゥット:ガーボル・ブレッツ  ほか
モネ劇場合唱団、管弦楽団
指揮:アラン・アルティノグリュ
演出:クシシュトフ・ヴァルリコフスキ

「ホフマン物語」はオッフェンバックの未完作品でもあり、3つの失恋物語を寄せ集めた感が強い。そこで観る側が想像力を働かせて何かを読み取るのことになるが、この演出はそれを一つのストーリーとして完成させた素晴らしいものであった。

ポーランド出身のクシシュトフ・ヴァルリコフスキは演劇界の奇才とのことである。バイエルン国立歌劇場でペトレンコ指揮の「影のない女」、「サロメ」の演出を担当している。ストリームで観たが随分いろいろとアイデアを出す演出家だと思った。この「ホフマン物語」では場所をハリウッドの映画界にしている。ホフマンは落ちぶれた映画監督で酒浸りの生活を送っている。ニコラウスはホフマンの助手を務めていた。オランピア、アントニア、ジュリエッタは映画のヒロインで、ホフマンはそれを演じた女優に恋をしていたという設定である。オランピアは人形だが人形のように可愛らしい娘らしい。ジュリエッタが要求するホフマンの影とは彼が制作した映画の著作権のことである。随分欲の深い女優ステルラである。その女優はオスカー賞を受賞するスターになったが、ホフマンは仕事のない哀れな身分に陥っている。人生の悲喜を感じさせる見事な演出だと思う。

ヒロイン3役はパトリシア・プティボンひとりで演じた。この設定なら当然そうあるべきと思う。オランピアの可愛らしさ、ジュリエッタの哀しさ、アントニアの妖艶さ、3様のキャラを演じ分け素晴らしかった。オランピアはゴツゴツした機械の動きをしない。今の時代AIで人間らしい動きはできるのだが、死んでストレッチャーに寝かされているところからも娘と理解した方が良いと思う。3役を分担するとニコラウスが主役に見えることがあるので、オッフェンバックの意向通りに一人で演ずるのが良いとこの演出を観て思った。プティボンの歌唱も円熟していて、声の転がりも滑らかで美しかった。ニクラウスのミシェル・ロジエも素晴らしい。安定した歌唱ときびきびした動きで立ち姿が目立って良い。

さてホフマンのエリック・カトラーだが、この演出はちょっと難しいように思う。それは監督と俳優の2つの仕事を持っていることによる。映画製作で音どりをする時は隅っこにいて、演技する時は同じ衣装で行うから見た目女優とのバランスが極めて悪い。タイトルロールでありながら目立たない。この点の工夫があればと思った。

合唱、ダンスも華やかな衣装で良く動いていた。オペラの筋には関係ないがダンスや曲芸を入れて雰囲気作りをするのはヴァルリコフスキの特徴のようだ。

それにしてもフランスの女性オペラ歌手は皆スタイルの良い美人ばかりである。この舞台でも男性を含めてデブはひとりもいない。パリの街を歩いてもそう見えるから洗練された国民性ということだろうか。観ても楽しいオペラであった。