2018.10.10 (ライブ収録)
出演
マーニー:イザベル・レオナード
マーク:クリストファー・マルトマン
テリー:イエスティン・デイヴィス  ほか
メトロポリタン歌劇場合唱団、管弦楽団
指揮:ロバート・スパノ
演出:マイケル・メイヤー

この作品「マーニー」は20世紀イギリスのウィンストン・グラハムによる同名のサスペンス小説をオペラ化したもの。既にヒチコックによって映画化もされているようだが私は観ていない。ニコ・ミューリーはまだ30代のアメリカの作曲家で演出家マイケル・メイヤーからもちかけられて作曲したとのこと。

主人公のマーニーは子供の頃弟を殺したと言われて育ち、今は詐欺師となって事務所で働いている。母親にせびられたのか病気か分からないが、大金を盗んでは逃走し職を転々と変えている。彼女に一目惚れしたマークに窃盗の現場を見られ、脅されて結婚することになるが夫婦関係はない。乗馬が好きだった彼女の機嫌を取り、馬を与えると馬が暴れ出し助けようとした夫が大怪我をしてしまう。夫の入院中に金庫を開け持ち逃げしようとするが、夫の誠実な愛に気づき何も取らずに母親のもとに帰る。母親は死んでおり弟を殺したのは実は母親であると聞かされる。そこへ夫が現れてやり直そうと諭すが、彼女は罪を償うと警察の手にかかる。これがオペラを観た限りの大筋である。

真っ先にこんな母親がいるものかと思ってしまう。昨今の若い母親が男に夢中で子供が邪魔という事件を思ってもみる。しかしオペラの中にそのような節もないのでそれは置いて、この作品が言いたいのは人間の本性は善であるという風に理解したい。

音楽は演出家とよく相談したそうでその所為か何か映画のBGMを聴いてるように感じた。残念ながらクラシックの音楽として特徴的に響くものがなかったように思う。

歌手は女優のように美しいマーニー役のイザベラ・レオナードが素晴らしい。これなら男が信用するのも無理ないと思うが、そのファッションを見てるだけでも楽しい。10回程衣装を替えたが、場面が変わる度に舞台脇のテントで素早く着替え変わり身を披露した。スタイルが良いので乗馬姿が良く似合った。お相手を務めるマークのクリストファー・マルトマンも俳優並みにハンサムだったから美男美女コンビの映画を観てるようであった。兄のマークに対抗心を持ち歪んだ性格の弟テリーをカウンターテナーのイエスティン・デイヴィスが演じた。顔半分あざのメイクで一層異常に見せるためにカウンターテナーを起用したのかもしれない。カウンターテナーが個人的に好きでないこともあるが現代のオペラで強いて使う必要があるかと思う。兄弟の対比が際立つことは確かだが。

舞台転換が極めて能率が良い。壁などの仕切りは天井から下がったパネルが動きそこに映像や照明を当て、小道具の移動も役者が舞台の進行中に入れ替えるので途切れることがない。幕を下ろすのは休憩が入る時だけだが、最近こういう演出が多いと思う。それと最も気になったのが4人の影のマーニーが出ること。心の動きを表しているようだが、同じ仕草を周りで真似てるだけの時もあり、あまり意味があるとは思えなかった。

ストーリーも舞台も変化があって面白いが音楽はほとんど印象に残らなかった。新作オペラの泣き所だが何度も聴けば変わってくるかもしれない。