2024.1.14~28 ミラノ・スカラ座(YouTube)
出演
メデ:マリーナ・レベカ
ジャゾン:スタニスラス・デ・バルベイラック
クレオン:ナウエル・ディ・ピエロ
ディルセ:マルティナ・ルッソマンノ
ネリス:アンブロワジーヌ・ブレ ほか
ミラノ・スカラ座合唱団、管弦楽団
指揮:ミケーレ・ガンバ
演出:ダミアーノ・ミキエレット
スカラ座ではマリア・カラスの伝説的メディアから60年以上経って漸く「メデ」上演された。だがカラスのイタリア語版でなく言葉のセリフが入るフランス語版。それもこの新演出のために書き改めたもので予め録音したフランス語がスピーカーから流れた。このYouTubeは何故か字幕がついてない。(あってもイタリア語やフランス語ではどうしようもないが) 対訳本が手元になかったし、あらすじは知っていてもスピーカーの言葉が分からないから十分には理解できない。残念だったが仕方なく字幕がなかった時代に戻った気分で観た。
ダミアーノ・ミキエレットはイタリアの演出家で新国でも何度か演出を担ったことがある。この「メデ」はギリシャ悲劇を現代に読み替え、メデのシャゾンへの復讐というよりメデと子供たちの愛情の観点から描いている。メデはシャゾン(夫)に捨てられた妻で二人の子供はシャゾンが連れ出しシッターが面倒を見ている。その子供たちは父親よりも母親の方を慕っている。クレオンは差し詰めオーナー会社の社長と言ったところで、仕事の出来るシャゾンと娘ディルセを結婚させ事業を継がせたいと考えているようだ。メデはシャゾンと話し合うが冷たくあしらわれるので、最後の手としてクレオンの娘を殺し自分も子供たちを道連れに母子心中を図るのである。
序曲が演奏される中メデが乳母車を引いてステージを横切ると幕が開く。舞台は淡いパープルのリビングルームで白いソファーが置かれている。中央奥にひとつのドアがありそれを開けると子供部屋が見える。衣装もきれいでフランス流の洗練されたカラーは内容に不釣り合いのように思うが、現代の金持ちの見栄を張る趣味かもしれない。
舞台は終始このリビングルームで進行する。シャゾンが手に入れた金羊毛は高価な調度品として置かれ、メリーゴーランドなどのおもちゃがあちこちにある。黙役の子供たちが遊ぶ場面が頻繁に出てきてこの子供たちが舞台の中心になっている。ギリシャ悲劇の残虐な描写はなく、ディルセが焼き殺されるシーンもなければ、子供たちを刺殺するのも甘いシロップをあやすように飲ませている。(それも映像で) ただメデが贈るティアラに火の魔法をかけるシーンはあるが、これはメデの心境を表したものであろう。細かいことを先に書いてしまったが、ミキエレットが表現したかった基本線は次の場面に集約されていると思う。2幕で「MAMAN FOUS AIME(ママはあなた達が好き)」と手書きされた壁が3幕で崩れ天井から瓦礫が落ちてステージを埋める。そしてフィナーレではオーケストラの大音響が響く中、シャゾンが子供部屋のドアを叩き、メデはソファーに倒れて幕となる。
歌手ではメデのマリーナ・レベカが子供たち、シャゾン、クレソンと相手によってそれぞれ歌い方も演技も変え、時々の感情が籠って素晴らしかった。ビデオで見ると特に怒った時の顔の表情が凄い。もう一人メデに寄り添ってシッターのネリスを演じたアンブロワジーヌ・ブレ、優しい控え目な雰囲気が出て良かったと思う。しかし最も印象が強かったのは可愛い2人の子役たち。2時間以上も舞台に出るのだから相応の経験があるに違いない。カーテン・コールで一番拍手をもらったのはこの子供たちであった。劇の中で子供たちを怒ったディルセのマルティナ・ルッソマンノがカーテン・コールで抱っこして引き下がったのは微笑ましい光景だった。この人きれいで舞台映えがする。
ミケーレ・ガンバの指揮はダイナミックであった。ノン・ヴィブラートの固い音で情緒的なところはなくシンフォニックな厳しい演奏だった。オーケストラだけの時は迫力があって素晴らしいが歌が入るとちょっと出過ぎの感があった。(録音の所為かもしれないが)
新演出にも拘らず演出家が顔を見せなかったから初日ではなかったように思う。投稿された日付から想像すると2日目の17日の収録ではないかと思う。第2幕冒頭で支配人が出て何か喋ったが、多分誰かが調子が悪いけど続けるということだったろう。その後を聴いても気付かなかった。
マリーナ・レベカと子役の活躍が見ものだった。注目された公演ではあったが総じて音楽も演出もまずまずと言ったところだと思う。スカラ座で敢てフランス語版を使ったのはカラスを意識してのこととは思うが聴衆の反応も今一つだったようだ。