2022.10.14&16 トゥールーズ・キャピトル劇場 (NHK-BS)
出演
ルサルカ:アニタ・ハルティッヒ
王子:ピョートル・ブシェフスキ
ヴィドニク:アレクセイ・イサーエフ
イェジババ:クレア・バーネット・ジョーンズ
外国の王女:ベアトリス・ユリア=モンゾン ほか
トゥールーズ・キャピトル劇場合唱団、国立管弦楽団
指揮:フランク・ベールマン
演出:ステファノ・ポーダ
1年半程前トゥールーズ・キャピトル劇場のシーズン開幕を飾ったものでイスラエル・オペラとの共同新制作である。ステファノ・ポーダはイタリア人だが舞台セットから衣装、照明、振付まですべて一人で担う評判の演出家らしいが私は初めて観る。フランス歌劇場のオペラは概して洗練されていて目を楽しませてくれる舞台が多い。
演出のステファノ・ポーダは読み替えを全くしない。台本に忠実でそこに含まれる今日的解釈を創造的に舞台化する。この舞台も実に見事で美しい。1幕(3幕も同じ)は三方を格子状半透明の青白い壁で囲みステージは端の狭い通路を除いて全面水をはったプール。2幕は一転してプリント基板模様の黒い壁でペットボトルのゴミ山を片付けその後に拵えた舞踏会場。白と黒の対比は水の精(自然と言ってもよい)と人間が別の世界に住み相容れないことを表している。もう一つ舞台の中心を占めるのは左右一対の大きな手。これはイェジババ(魔女)の象徴で水の精が魔女の掌の中で操られている、つまり自然は人間がコントロールできないことを表しているようだ。
それに加えて演ずるのが歌手だけでなく16名のダンサーであること。むしろその人達の方が舞台を見せる立役者になっている。1幕では彼ら水の精たちが薄い白のベールをまとい、プールに浸かりっ放しで転げ回わる。足首程度の深さだけでなく一部は胸までつかるほど深い。風邪をひかないかと心配になった。2幕になると彼らは厚手の舞踏服に着替えて整然と踊る。3幕は振付けは違うがまた水の中である。特別の意味はないと思うが舞台の生きた背景として目を見張るものがある。
演出主導で歌唱は特に女声の方が役柄にマッチしてないところがあると感じた。演出家の要求を強く意識し過ぎたのか感情が十分伝わってこない。ルサルカのハルティッヒはウィーン国立歌劇場と来日したことがあり、立派な歌唱ではあったがルサルカの初心さとか可哀そうな感じがあまりしなかった。イェジババのバーネット・ジョーンズは丸坊主で勇ましい外形に似合わず歌唱は力強い凄味がなかった。外国の王女のユリア=モンゾンもルサルカとの対比で傲慢さが足りないように思った。それに比べると男声の方が良く、王子のピョートル・ブシェフスキは普通に歌ってるだけのようだが若さと華やかな感じがあったと思う。一番素晴らしかったのはヴィドニクのアレクセイ・イサーエフで力強く温かい声で高貴で優しい父親役を演じていた。特に1幕は胸まで浸かった中で歌ったのには驚いた。ダンサーと違ってボデースーツを着ていたがそれにしても役者根性が凄い。ベールマン指揮のオーケストラも叙情ある演奏でドヴォルザークの美しい音楽を鳴らして素晴らしかった。
この公演は聴くオペラと言うより見るオペラの感がした。最大の称賛はダンサーに与えられるべきと思うが、カーテンコールでも一番拍手が大きかったから同じ受け止めをしたと思う。