くらはしのクラシック日記

~倶楽趣博人(くらはしひろと)の随想クラシックの思い出、Cafe Klassiker Hrを受け継いだブログです~

カテゴリ: オペラ


2020.2.8(土)14:00 愛知県芸術劇場 大ホール

出演

リゴレット:須藤慎吾

マントヴァ公爵:笛田博昭

ジルダ:佐藤美枝子

スパラフチーレ:伊藤貴之

マッダレーナ:鳥木弥生  ほか

藤原歌劇団合唱部、セントラル愛知交響楽団

指揮:柴田真郁

演出:松本重孝

 

先週の東京に続き名古屋での打ち上げ公演。イタリア・オペラらしい歌唱重点の好演であった。

 

「リゴレット」は父娘の愛情を中心に、他はその二人に対比する人物として描くのが良いと思う。しかし台本はその人達もまた父や娘と同じように悩むことになっている。つまり恋、家族愛、金銭などを普遍的で共通の問題として扱っている。人間本質からは確かにそうだが、物語構成としては焦点がなく散漫になる。普通善人悪人を明確にする演出が多いと思うが、ここはむしろ台本通りでそれが随分弱められていると感ずる。

 

ごく普通の伝統的演出の部類に属する。広い舞台は壁と階段だけで造ったような簡単なセット。いかがわしい居酒屋も上手に設けた骨だけの小さな小屋。見た目は如何にも貧弱に見える。衣装が立派だったので余計ちぐはぐを感じた。またヨーロッパの伝統的演出と比較しても過激な表現を避けた日本的保守的な舞台であった。正直可もなし不可もなしと言ったところ。

 

ということで関心は音楽だけである。指揮の柴田真郁は声楽出身で歌唱を最重視していると思った。最後の音を限界まで伸ばすなどして情感を盛り上げていた。またオケの音量も歌の有無で大きく変えているのがよく分かった。ただしオケだけの演奏では生き生きした良い響きを出していたが、伴奏となるとどこか無神経なところがあると思った。

 

ソリストではまず第1に須藤慎吾が素晴らしい。これがロールデビューとのこと。気合の入った歌唱と、演技では終始前屈みで衆目を独り占めするような熱演であった。佐藤美枝子はジルダ役がオペラデビューだったそうだ。日本デビューはそれより後チャイコフスキー国際コンクールで第1位を獲得した後だが、表現力はさすが抜群である。ただソロは素晴らしいが笛田や須藤と一緒では声量不足を感ずる。笛田の存在感はやはり凄い。他の人とは別格の声がこの大きなホールの隅々まで力強く響き渡る。この日は調子が良くなかっららしく所々でひびが入ったのは惜しかった。声を売り物にする彼にはもう少し楽にセーブすることが出来ないらしい。スパラフチーレの伊藤貴之は初めて悪役を聴いたが、豊かな声できつい表現も出来て良かったし役柄が拡がったと思う。その他の歌手も藤原歌劇団の底力を示す好演でこれから一層活躍されると思う。

 

ヴェルディの中で「リゴレット」は好きでないし、最初キャスト表を見た時全体に役柄に合わない人が多いのではと思った。しかし演出が一面的解釈をとらないマイルドなものだったこともあり、それが杞憂になった好演であった。

 

来年の演目はまだ発表されていないが、ポピュラーものにとどまらずもっと範囲を拡げてもらいたいと要望する。

 

 

2020.1.12(日)14:00 びわ湖ホール中ホール

出演

アイゼンシュタイン:二塚直紀、ロザリンデ:森谷真理

フランク:山下浩司、オルロフスキー公爵:藤居知佳子

ファルケ博士:市川敏雅、アルフレード:宮城朝陽

アデーレ:平尾 悠、イーダ:上木愛理李

プリント博士:蔦屋明夫、フロッシュ:林 隆史

びわ湖ホール声楽アンサンブル、日本センチェリー交響楽団

指揮:秋山和慶

演出:中村敬一

 

今回初めて行ったがびわ湖ホール声楽アンサンブルによるオペラへの招待シリーズ、日本語上演で親しみやすく予想以上に素晴らしい公演だった。

 

中規模だが本格的オペラと変らない。赤、黒、金の額縁的舞台。奥のスクリーンに居間、舞踏会広間、監獄を映し各幕の場面が分かるようにしている。前にあるのはソファーとテーブルくらいで、簡素ながらも色彩的に華やかな雰囲気があり、衣装も美しい。

 

日本語上演でも歌に字幕がついたのは良かった。セリフの時は問題ないが言葉が聞き取れないことが多いものだ。今回の訳詩は中山悌一によるものだそうで、字幕なしでもかなり分かったのは流石に歌手と思った。

 

舞台装置、日本語の他にもう一つびわ湖ホールの狙いがあるように思った。それは規模をいたずらに大きくせず、オペラを楽しませることを念頭に置いているということ。この「こうもり」は2幕後半のどんちゃん騒ぎを省略し、3幕フロッシュのセリフもびわ湖ホールに相応しいように大幅に変更していた。時間短縮、舞台人数の削減、地元の宣伝の点からも効果的だったと思う。

 

このオペレッタ、女声は歌唱で、男声は演技で魅せる感がある。可笑しさは歌ではなく、セリフと演技の力である。勿論オペラは歌唱が基本であるから、一面が良ければ他はどうでもよいというわけではない。歌手陣は森谷真理、山下浩司の客演を除いても、びわ湖ホール声楽アンサンブルの方々は素晴らしく、充実したキャストで揃っている。アイゼンシュタインの二塚直紀、フランクの山下浩司、ファルケ博士の市川敏雅、いずれも声が素晴らしいし演技も上手い。最も笑いを誘うのは歌わないフロッシュだが、その林 隆史は俳優でなく、ここのアンサンブルのバリトンで、なかなかの芸達者である。セリフ自体が笑える上に、聴衆にも一緒に歌わせたり、拍手を要求するなどして場を盛り上げていた。森谷は最近レパートリーがどんどん増えていて、今回「こうもり」を観たいと思ったのも彼女が歌うからである。欧米の第一線ソプラノにコロラチュルラからリリコ、スピントと変っていく人が多いように、彼女も同じ道を歩んでいる。これから10年最も期待できるソプラノと思う。1週間ほど前ウィーンの「こうもり」をTVで観たばかりだが、森谷のロザリンデともう一人オルロフスキー公爵はキャラ的にこちらの方が合っていると思った。

 

秋山和慶の指揮は真面目である。オケだけの演奏は良いと思うが、全体に面白くしようとする姿勢がないからリズムが重く感ずる。華やかさとリズム感に欠けるところはあったが、これは演ずる側にも問題があるように思う。

 

不満が全くないことはないが十分に楽しませてくれた素晴らしい公演であった。この日満席、補助イスまで出ていた。中には児童を引率した集団もいたが、どうもフロッシュの呼びかけに応えるために仕組まれたものだったようだ。オペラを楽しませる雰囲気作りにも役立っていると思う。このように滋賀と兵庫はオペラの自主公演に積極的で集客力も凄いのは立派だと思う。

 

IMG_3535 (2)IMG_3532

 

 


2019.
12.14(土)14:00 パティオ池鯉鮒かきつばたホール

出演

ドン・アンキナーゼ:大久保 亮  ほか学生

愛知県立芸術大学合唱団、管弦楽団

指揮:佐藤正浩

演出:飯塚励生

 

県芸大のオペラはモーツァルトが圧倒的に多いが、その中で今回初めてレアものを取り上げた。4年ほど前に東京で観た覚えがあるが、名古屋地区では多分これが初演と思う。先週の長久手公演に続き3日目になり、学生公演という枠を取り除いてもオペラの総合的充実度は高く大健闘と讃えたい。察するに学生以上に先生の苦労も大変だったと思う。

 

このオペラはモーツァルト18歳の作で今日から見れば未熟だと思う。しかしバロックの延長線上で考えればすごく新鮮味があって、後の傑作「フィガロの結婚」や「コジ・ファン・トゥッテ」の習作という見方も出来るのではと素人は思う。登場人物8人中6人までがテノールとソプラノ。主役脇役を問わず各人の長いアリアと各幕フィナーレの重唱が聴き所ではあるが、舞台の面白さから言えば恋の駆引きが見所ということになる。

 

この種の喜劇は歌うだけでは笑いが誘えない。演技とか相手方との呼吸(打てば響くタイミングの良さ)が重要となるからプロでもなかなか難しいと思う。そんな中で学生には「精一杯頑張ったね」とねぎらいたいと思う。卒業して盛んに活躍している大久保亮を別にして、学生の粒は例年に比べても揃っていたように思う。それ故にひとりひとりの出来よりもアンサンブルの方が光って、各幕のフィナーレが素晴らしかった。ONE TEAMが流行語になったが今年の公演は特にそう感じた。オケと合唱もよく訓練されていて不満はない。舞台装置はいつもながら良く出来ているし、照明も衣装もきれいで良かった。

 

学生公演は営利目的がないから勉強に適したものならばこうしたレアものに今後も積極的に取り組んで欲しいと思う。

 

パティオ池鯉鮒は初めて行った。新国中劇場並みの円形額縁型ホールだが、丁度良い音響と木質の格調高い雰囲気でどこからも観やすくオペラには最適である。難点は駅から遠いこと。臨時バスを運行しているが、ほとんどの人は車で来ていると思う。


IMG_3525

IMG_3528IMG_3527       

 

 


2019.
10.6(日)13:00 愛知県芸術劇場大ホール

出演

ホフマン:中井亮一、ミューズ/ニクラウス:石原まりあ

オランピア:佐波真奈己、アントニア:岩田千里、ジュリエッタ:天野久美、ステッラ:水谷映美、母の声:守屋貴美子

リンドルフ:林隆史、コッペリウス:野々山敬之、ミラクル:岡本茂朗、ダペルトゥット:森拓斗

スパランツァーニ:永井秀司、クレスペル:水谷和樹、シュレミール:松下真也  ほか

名古屋二期会合唱団、オペラ管弦楽団

指揮:園田隆一郎

演出:中村敬一

 

「ホフマン物語」は当地では2010年あいちトリエンナーレ以来、名古屋二期会としては初めてである。ソプラノだけでなくバリトンも4人で分担したのでその分ニクラウスの存在が前に出る形になった。ダブルキャストの2日目を観たが名古屋二期会総出の感があり、音楽演出を総合して大健闘だったと思う。

 

演出はオーソドックスで舞台はシンプルなのに質感があって美しかった。ステージ奥に2階への大きな階段があり、手前側で飲み屋のテーブル、人形の工作台、ピアノ、ベッドとソファを幕毎に置き換えていた。きれいな衣装と効果的な照明で場の雰囲気はガラッと変わり、人の動きと配置を美しく見せるよう工夫されていた。細かいところでは、オランピアの他にも別の人形が出てきたり、肖像画から母の声役が出たり、ホフマンが情夫以外にも人を殺すなど一風変わったアイデアや解釈もあって面白かったが、他方2階でゴンドラを漕ぐなどおかしなところもあった。

 

歌手は持てる力を十分に発揮した熱演だったと思う。男性の方が声がよく通っていた。特に目を引いたのはホフマンの中井亮一。ホフマンは芸術家だから標準的なタイプはなくいろいろ個性があってもそれでよいと思う。要はタイトルロールとして目立つことが不可欠で、彼の輝きのある声は中井とすぐわかる特異なもので、それが良かったと思う。

女声では初めて名を知ったオランピアの佐波真奈己が素晴らしかった。このオペラでは最も注目を集める得な役だが、透明な可愛い声で衣装演技もとても人形らしくて良かった。登場した女声全てに言えることだが、歌唱だけでなく演技でも見せようとしていた姿勢に好感が持てる。

 

園田隆一郎の指揮はこの名古屋二期会公演でも以前「セヴィリアの理髪師」を聴いた。派手ではないがオペラの展開を自然に作っていく中で、さりげない起伏、リズム感、迫力があり、オケ合唱ともそれによく反応してたと思う。所々でロッシーニを聴いてる気がした。

 

当日プログラムを見て知ったが、今回はケイ&ケックによる最新版とのこと。オッフェンバック未完の作品だから死後手が加わり多くの版が存在する。これまで聴いたのと比較すると結末が違っていた。ジュリエッタの場でホフマンが殺人を犯す、ステッラがホフマンのために身を引く、フィナーレでステッラの他にオランピア、アントニア、ジュリエッタも舞台に出てホフマンを勇気づける、この3点である。話はより複雑になるが善良な人間味が出て気分が穏やかになる。

 

この作品は3つの短編小説を基にひとつにしたもので、夢か現実か分からない曖昧なところが多々あり、すべてつじつまを合わせるのが難しい。それだけにいろいろ考えたり想像したりできるので面白く、好きな作品である。

 

 

2019.9.7(土)14:00 新国立劇場オペラパレス

出演(新国立劇場・東京二期会共催

コリンナ:砂川涼子、メリベーア夫人:中島郁子、フォルヴィル夫人:佐藤美枝子、

コルテーゼ夫人:山口佳子

騎士ベルフィオーレ中井亮一、リーベンスコフ伯爵:小堀勇介、シドニー卿:伊藤貴之、ドン・プロフォンド:久保田真澄、ドン・アルヴァーロ:須藤慎吾 ほか

藤原歌劇団合唱部/新国立劇場合唱団/二期会合唱団、東京フィルハーモニー交響楽団

指揮:園田隆一郎

演出:松本重孝

 

藤原歌劇団総力を挙げての公演、と言ってもこれが3度目だから驚かない。毎回ダブルキャストで4年前の公演(Aキャス)はテレビで観たが、今回はそれを凌ぐ素晴らしい出来栄えであった。

 

日生劇場の再演舞台を新国に乗せると小さく見えるが、音楽はそれを吹き飛ばした。大局的に男声に世代交代が進み、女声に表現力が増したと言えるのではないか。

 

コリンナの砂川は最近意識的にレパートリーを増やしているように思うが、この役は1回目から歌っている。軽い喜劇的演技はあまり得意でないようだが、歌唱の方は素晴らしかった。フォルヴィルの佐藤は前回のコリンナより派手な性格のこの役の方がずっとハマっている。メリベーアの中島は二期会所属だが、ロジーナも歌っていてロッシーニが得意のメゾ。二人の男を掛け持ちする役にしてはちょっと真面目だが、実に上手いし声がよく通る。男声で一番目立ったのはベルフィオーレの中井亮一。輝きと艶のある声が独特であるし、日本のオペラでは珍しい喜劇役者でもある。今回初めて聴いたテナー、リーベンスコフの小堀勇介は高い声にしては柔らか味があり無理せず自然に歌って素晴らしい。最も難しいテノール役にこの二人を揃えたのが一番の成果とも言える。シドニー卿の伊藤はノーブルな声が役柄にもあっていて、砂川のコリンナの声との相性も良いと思った。ドン・プロフォンドの久保田はすっかり役に溶け込んでいた。全部は書けないがソロだけでなく次々出てくる重唱もバランスがよく取れて正に大競演であった。

 

園田隆一郎の東京フィルは師匠ゼッダの時よりむしろテキパキして調子が良かったと思う。ハープやフルートのソロも美しく歌唱に花を添えていた。

 

欲を言ったら切がないが、日本のオペラ歌手は総じて真面目だから、この種のドタバタ喜劇はハメを外すような振舞いもできず得意とは言えないと思う。そういう点はあるものの、2日目だったこともありスムーズに進行しよく纏まっていた。特に歌唱が素晴らしく、邦人では今日望みうる最高のものだったと思う。


ワーグナーもよいが心底喜劇のロッシーニもまた楽しい!


IMG_3476

  「ランスへの旅」寄せ書きサイン

2019.8.18(日)14:30 愛知県芸術劇場コンサートホール

出演

ジークフリート:大久保 亮

ブリュンヒルデ:基村昌代、ヴァルトラウテ:三輪陽子

グンター:初鹿野 剛、グートルーネ:大須賀園枝

ハーゲン:成田 真、アルベリヒ:大森いちえい

3人のノルン&ラインの乙女:加藤 愛、船越亜弥、本田美香   

愛知祝祭管弦楽団、合唱団

指揮:三澤洋史

演出構成:佐藤美晴

 

2016年から始まったリング・チクルスが完結した。三澤音楽監督の献身的指導により年々充実度を増し、アマチュア・オケの公演と言うよりも日本のワーグナー演奏史上に残る画期的「事件」と思う。もちろん三澤監督一人だけではなし得ないことであり、関係者一同に敬意と賛辞と感謝の気持ちを捧げたい。

 

音楽も演出も今回が最も完成度が高かった。歌手がバランスよく揃っていたこと、オケはヴァイオリンがきれいな音を出せるところまで成長を見せたこと、演出は統一感ある芸術的香りが感じられたことなど、総合的に見て最高の締めくくりであった。

 

演出面を見れば、コンサートオペラとしてオケの後方に主演技台を設け、時にP席などを使う方式は初回から変わっていない。ただその中にあって今回は架空上のものが出てこないから人間の行動と心理描写だけに焦点を当てることができた。歌手は舞台に出てる間は始終何かしらの動きをしている。小道具(指環、剣、杯)なしで衣装を着け演技するのでジェスチュアを観てるようであった。照明もリアルな映像を使うのでなく炎とかライン川の水でも雰囲気を表すだけ。抽象的な舞台で演技をやるようなものだが、それが統一が取れて良いと思った。

 

歌手は期待を遥かに超える素晴らしさだった。ブリュンヒルデ基村は年を追って素晴らしくなり、強弱どんな場合もふっくらした声が変わることなく、感情込めて歌いあげ最後まで崩れることがなかった。三澤監督の特訓が見事に花咲いたようだ。ブリュンヒルデに相応しい暗めの美しい声だから、これから活躍の場が拡がると期待したい。ジークフリート大久保はシューベルト歌曲やエヴァンゲリストを歌ってきた人だけに心配した。しかしさすが最後は疲れてきたようだが、きれいなタミーノの声で長丁場を乗り切り大健闘だった。この声で「ジークフリート」が歌えるとは思えないが、日本版フォークトとして新しいワーグナー歌手が誕生した。フォークトが初めてワーグナーを歌った「ローエングリン」がこの愛知祝祭でも計画されてると聞くが、間違いなくキャスティングされると思う。ハーゲン成田は初めて聴いた。日本には悪役に適したバスがいないが、この人も同様で品の良い声の持ち主である。アルベリヒ大森との夢の中の対決は己に言い聞かせてるような場面だけに二人とも聴き応えのある歌唱であった。グンター初鹿野は王家当主としての威厳と品格が感じられる歌いっぷりで素晴らしかった。グートルーネ大須賀は声量不足は仕方ないが姿も声もきれいであった。毎度ながら凄いと思うのはヴァルトラウト三輪で、ブリュンヒルデとのかけあい場面だけだが迫力があって最高に素晴らしかった。1場だけではもったいないと思う。3人のノルンは序奏で声がしばしば聞こえなかったがラインの乙女では元気に歌っていたので、意図的に死にゆく老婦役を演じたようである。

 

ソリストは楽譜を見ていたが合唱は暗譜で、P席でそれぞれが立ち姿を変えて演技していた。オケに比べ迫力不足のように感じたが、これは既成合唱団でなく全員が新たに応募した人だそうで人数が少なかったかもしれない。

 

オケも進歩していたと思う。特に弦で気付いたことだが、低音は元々豊かな響きをもっていたのに加えてヴァイオリンがきれいな良い音を出しているのに驚いた。全管弦のフォルティシモは凄く耳が痛くなる程迫力があった。指揮は余計な作為を一切しない。静かなところは静かに、豪快なところは豪快に、悲しい時は悲しむように、うれしい時は快活に楽しいように、ごく自然に普通に流すだけ。いつも感ずることは特にフィナーレの終わり方がこの上なく印象的なこと、「ラインゴールド」も「ワルキューレ」も「神々の黄昏」もジーンと胸を打った。

 

来年はリング4部作を2日に分けてハイライトで演奏するとのこと。リングは一連の物語だから出来ればバイロイトでやってるように通して聴きたいと思っていた。ドイツのどこかで2日で全曲通したことがあったよう記憶するが、いくらなんでもそれは無理であろう。ハイライトとはいえそれでも日本初の試みとなる。愛知祝祭は非常識とも思えることに挑戦し続ける。

 

この意欲がどこから来るか不思議に思う。こんなことが出来ればと夢見る人はいると思うがそれをやってのける佐藤団長と高橋コンマスには頭が下がる。二人とも社会的要職に就きながらである。指揮者三澤監督ともども3人がいなかったら実現しなかったであろう。スポーツだけでなく文化でも金メダル級のことをやったのだから県民栄誉賞でも贈呈したらよいのにと思う。

 

2019.7.27(土)18:00 宗次ホール

出演

ホフマン:青柳素晴、ステラ/オランピア/アントニア/ジュリエッタ:天羽明恵、

ミューズ/ニクラウス/アントニアの母の声:鳥木弥生、リンドルフ/コッペリウス/ミラクル/ダペルトゥット:須藤慎吾、フランツほか(テノール):小山陽二郎、クレスペルほか(バスバリトン):大澤恒夫、ピアノ:江澤隆之、ほか

 

素晴らしい声を間近で堪能した贅沢なコンサート。ポピュラー物でもない「ホフマン物語」だが演奏会形式というのも更に珍しい。300人の小ホールでピアノ伴奏による歌だけで聴かせようというのだから興味が湧く。どちらかと言えばオペラ通向きの企画であろう。それだけに豪華な出演者を揃えた公演であった。

 

リサイタル向けのステージに下手にピアノ、前側に4本の譜面台、後側に横一列の椅子が並んで、歌手は歌い終えると舞台から下がる。幕毎に全体の照明は変えていたが完全なコンサート形式。字幕がついたのは有難かった。

 

第一線で活躍中今が旬の歌手オンパレード。皆凄い声であった。青柳素晴はホフマンとしては少し声が重い感じがするが、長丁場を全く草臥れることなく歌えるのはさすが実力者だと思う。久し振りに聴いた天羽明恵は持ち役オランピアでは仕草を加えて歌い面白く聴けた。普通4役を一人で演ずるのは例外的だが、それに挑戦したのは凄いと思う。彼女だけが性格の全く異なる役柄を衣装を取り換えて歌い雰囲気的にも変えていた。鳥木弥生は落ち着いた声で天羽と違った脇にぴったりで、立ち姿も美しく一番気に入った。須藤慎吾はこのオペラの牽引役だが、悪者を豊かな声量でもって歌い切った。フランツほか召使を歌った小山陽二郎は遜ったような味が出て良かった。またクレスペルほかを歌った大澤恒夫も豊潤な声で素晴らしかった。

 

ただ折角の声もこのホールでは良さが生きたとは思えない。響き過ぎるのである。迫力の限界を超えてむしろ騒がしく聴こえてしまう。強弱が薄まって感情の起伏が弱まってしまう感じである。大きなホールで聴いたらもっと素晴らしかったに違いないと思う。

 

東京五反田でも公演があったそうだがどうだったでしょうか。こちらはかなり空席があって残念でした。

 

 


2019.6.16(日)14:00 東海市芸術劇場大ホール

出演

アンドレア・シェニエ:宮崎智永、マッダレーナ:上井雅子、ジェラール:須藤慎吾
コワニー伯爵夫人:相可佐代子、ベルシ:太田亮子、密偵:大久保 亮、ルーシェ:中原 憲、修道院長:田中 準   ほか

名古屋テアトロ合唱団、東海児童合唱団、名古屋テアトロ管弦楽団

指揮:佐藤正浩
 

「アンドレア・シェニエ」と言えば学生時代NHKイタリア歌劇団の放送をラジオにかじりついて聴いた覚えがある。デル・モナコとテバルディによる日本初演であった。もう半世紀も前の話なのに、その後取っ付きにくいオペラでないにも拘らず日本では上演される機会が少ない。名古屋地区では初演かと思ったが、プログラムによれば藤原歌劇団が24年間に取り上げたとのこと。こういうレアものが地方でも聴かれるのはありがたい。

 

愛知県はアマ主催のオペラ活動が盛んである。愛知祝祭管弦楽団、三河市民オペラに続いて、名古屋テアトロが昨年「トゥーランドット」で旗揚げした。ソロ歌手はプロの力を借りるが、それも地元関係者が中心になっている。地域オペラの特徴であろう。

 

予想してたより遥かに素晴らしかった。コンサート形式で合唱だけが少し衣装をつけ演技まがいのことをする。多少ともオペラの気分を共有したかったのだろうか。オケと合唱は1年かけて仕上げただけあって不安なところが感じられず自信を持って演奏していた。コンマスの高橋 広も愛知祝祭を兼ねている人だが、アマとは思えないソロの音を出していた。

 

これは指揮の佐藤正浩によるところが大きいと思う。バリトン出身、伴奏ピアノ科修了という経歴が示す通り、歌手、オケ、合唱の全部を上手く自然にまとめ上げている。歌手には自発的に歌わせ、オケには小細工を要求せず大きな起伏のある流れを作り出している。オペラには一番適した指揮者だと思う。

 

歌手では宮崎と上井の奮闘が光った。感情の盛り込みが半端でない。ヴェリズモオペラでは上手な歌唱より感情過多で歌った方が真に迫った感じが出て良いと思う。タイトルロール宮崎は多少の難を補って余りある精一杯の熱演であった。またマッダレーナの上井も声量不足は如何ともし難いが役柄として無垢で一途な気持ちが表れていて良かった。声と歌唱では須藤が目立った。ジェラール本性の善人さは良く出てたが、気持ちの揺らぎ変化がはっきり分かるようにして欲しかったと思う。他に気付いた人では、大久保は魅力的な美しい声の持主だが密偵にしてはちょっと弱い気がする。それから太田が声に深みがあってこれから注目していこう。

 

プログラムに来年以降の予定が載っていた。それによるとトスカ、カヴァ・パリと続き、この団体はヴェリズモ路線で進もうとしているようだ。ならば負担は大きくなるが、是非暗譜で多少とも演技をつけて歌って欲しいと思う。そうすれば今年以上に盛り上がった大熱演になるだろう。

 

東海市は新日鉄の工場があるところ。10万そこそこの人口なのにこんなに立派なホールがあって素晴らしい。

IMG_3473
駅前にある東海市芸術劇場 1000人の大ホール 大小4つの練習室

IMG_3471



2019.6.8(土)15:00 フェスティバルホール


出演

サロメ:リカルダ・メルベート、ヘロデ:福井 敬、ヘロディアス:加納悦子、ヨカナーン:友清 崇、ナラボート:望月哲也、ヘロディアスの小姓/奴隷:中島郁子 ほか

大阪フィルハーモニ交響楽団

指揮:シャルル・デュトワ

 

期せずして「サロメ」の東西対決。東京二期会の評判も良かったようだが、こちらも稀にみる素晴らしい公演だった。

 

完全なコンサート形式。歌手は礼装、譜面を前に置いて演技は一切なし。これが却って良かった。私は「サロメ」の舞台上演があまり好きでない。理由は、リアルにやれば気味悪過ぎ、可笑しな読み替えをしようものなら音楽が損なわれる。ハイライトとも言うべき<七つのヴェールの踊り>をとってもこれまで満足したものがない。ポルノでないエロティシズムを表現できないものかと思う。歌手に要求するのは無理かもしれないが。

 

一番の功労はデュトワの指揮だと思う。数年前N響を振った時の映像も観たが実に上手い。豊潤華麗な音とダイナミクさ、何より洗練された表情付けが本当素晴らしい。「サロメ」など最も適した曲ではないかと思う。特にヴェールの踊りなどオケだけの時の演奏は凄かった。大阪フィルも私の知る朝比奈時代とは似ても似つかぬ音を出していた。尾高忠明が病気治療のため降板し、驚いたことにデュトワの登板となった。スキャンダルで多少時間的余裕が出来たか、お陰で私たちは幸運に恵まれたことになる。(尾高の早い回復を祈ると共にセクハラとか容認するわけでないこと勿論である)

 

サロメを歌うメルべートは声も表現力もさすが別格。ステージ上の大編成オケを背にしても決して打ち消されない。加えて凄いのはその時々の場面に合わせて歌い方を変えていること。ヘロデの目から逃れてきた時のホット感、ヨカナーンへの関心、激白、陶酔へと移る感情の変化、細かいことを言えばヘロデに対する執拗な要求<ヨカナーンの首を>もその都度声が変わっている。全く一人舞台の感であった。

 

日本人歌手も皆よく頑張って素晴らしかった。中ではヘロデの福井。普段クセのある歌い方が気になるが個性的役ヘロデには嵌っていたと思う。ヨカナーンの友清も感情に走らず沈着な歌い方が役に合っていた。ただバックステージからの声はマイクを使っていたのかしら。ステージ上と同じように聴こえた。ヘロディアスの加納は何時も端正な歌唱が良いが、この強い個性役にはちょっと向いてないように思う。

 

もう建ってから大分経つがフェスティバルホールに初めて行った。ここは観光名所にしてもよいくらい立派。河畔公園から見た外観、とてつもなく長いエントランス、星が輝くような吹き抜けの広いロビー。音響は今日のコンサート水準からは普通だが良く響く。2階上手側で聴いたが、音がよく混ざって聴こえオケには最適、だが人の声はどうしてもボケる。舞台上演オペラでピットに入ったらどうなるかはわからない。

 

指揮はフランス、タイトル歌手はドイツ、その他演奏家は日本、会場は大阪フェスティバルホール。正に文字通り大阪国際フェスティバル。あっという間に過ぎた2時間でした。


IMG_3454
河畔から見た外観

IMG_3455
正面中央階段

IMG_3463
ホールへ向かうエスカレーター

IMG_3464
吹き抜けのロビー



↑このページのトップヘ